自衛隊の戦車も運ぶフェリー、ナッチャンWorldとは？

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防衛省が使う高速フェリー

中国の海洋進出にともなって、自衛隊では南西シフトの配置が進み、離島防衛の部隊を編成しながら、必要な装備品を調達してきました。

いざ南西諸島で有事が起きた場合、日本版海兵隊の「水陸機動団」が出動するものの、まずは人員・物資を最寄拠点まで運び込み、その作業は主に海上輸送が担うはずです。

もちろん、C-2輸送機などで空輸するとはいえ、輸送力では船舶に遠くおよばず、大部分は海上輸送に頼るほかありません。ところが、問題は輸送艦艇が足りていない点です。

海自で運用中の輸送船といえば、「おおすみ型輸送艦×3と輸送艇1号型×1」しかなく、前者は就役から約25年が経ち、後者はまもなく退役予定です。

大規模な戦力の輸送には足りず、これを解消するために陸上自衛隊と組み、新たに共同の海上輸送群を創設しました。

それでもなお、単独では海上輸送力が心許なく、防衛省は以前からチャーター契約を結び、一部の民間船を借りてきました。そのひとつが「ナッチャンWorld」であって、これは民間会社が保有する高速フェリーです。

「ナッチャンWorld」は双胴型フェリーですが、もともとはオーストラリアで建造されたあと、東日本フェリーで青森〜函館間を結んでいました。海自の「はやぶさ型」ミサイル艇と同じく、ウォータージェット推進で最大36ノットを誇り、ズバ抜けた高速航行力が自慢でした。

一方、高速航行の代償として運航費が高くつき、採算悪化で就航路線が廃止されます。

このような苦境のなか、一度にトラック50台・一般乗用車100台以上を運び、36ノットを出せる点が防衛省の目にとまり、自衛隊の輸送船として借り上げられました。

フェリー会社は同船を持て余していたため、高速輸送力を確保したい防衛省と利害が合い、2016年に10年間のチャーター契約を結びます。

このとき、別の大型フェリー「はくおう」とともに、借上げ目的の専用会社に移管されますが、この運営方式は「PFI（Private Finance Initiative）」と呼び、民間会社を使いながら、公共サービスを提供する手法です。

90式戦車を降ろす様子（出典：防衛省）

その結果、2隻のフェリーは「半官半民」として扱い、乗組員を予備自衛官にしたり、ビジネスクラスの部屋に2段ベッドを置き、自衛隊向けの変更が加えられました。

また、左舷後部に車両ランプを追加したところ、戦車などを積み降ろしやすくなり、たとえ専用の岸壁がなくても、接岸できるようになりました。

すでに訓練や災害派遣で車両輸送を担い、90式戦車を北海道から九州まで運ぶなど、その輸送能力を証明してきました。

戦車などを運ぶ特設輸送船である以上、有事では防衛省との契約に基づいて、72時間以内に対応が求められます。

この有事は災害派遣を含むとはいえ、本当の狙いは南西方面の離島防衛です。

離島防衛に向けて輸送力強化を急ぐなか、高速フェリーは人員・装備をすばやく運び、防衛省にとっては打ってつけの存在です。

海自の「おおすみ型」輸送艦に比べると、「ナッチャンWorld」の搭載能力は申し分なく、むしろ速力では圧倒的に優れています。

ただ、平時は定期演習の輸送以外に需要がなく、観光船やイベント会場として貸し出しています。かつて就航していた青森、函館のイベントで利用されるも、緊急時は自衛隊輸送を優先せねばならず、2019年の台風では災害派遣要請を受けて、アニメイベントが急きょ中止されました。

このような中止リスクを考えると、企画側としては他より使いづらく、なかなか活用が難しいのは否めません。

現在は「ナッチャンWorld」「はくおう」に頼るも、防衛省はこれら船舶の老朽化をふまえて、新たに「ナッチャンNeo」を含む2隻と契約を交わしました。この新契約にともない、「ナッチャンWorld」「はくおう」は役目が終わり、2026年度からは別の船に交代します。

さらに、多くの車両・コンテナを運ぶべく、別の民間船舶（6隻）とも契約を結び、2027年までにPFI船舶を8隻にする予定です。

前述の海上輸送群と合わせると、自衛隊の海上輸送力は飛躍的に伸び、輸送力不足の解消は一気に進みます。