防空網制圧には欠かせない
航空優勢を確保するのが現代戦における勝利条件ですが、そのためには初戦で敵の防空網を制圧せねばなりません。
これには対空ミサイルの無力化なども含まれるなか、まず最優先で狙うべきはレーダー施設であり、ここで用いられるのが対レーダーミサイルになります。
なかでも有名なのは、アメリカが開発した「AGM-88」、通常は「High-Speed Anti Radiation Missile(高速対レーダーミサイル)」を略したHARM(ハーム)と呼ばれる対レーダーミサイルです。
- 基本性能:AGM-88 HARM
重 量 | 360kg |
直 径 | 0.25m |
全 長 | 4.17m |
速 度 | マッハ2.9 (時速3,580km) |
射 程 | 約150km |
価 格 | 1発あたり約4千万円 |
AGM-88はアメリカが1980年代に登場させた防空網制圧用の兵器で、F-16戦闘機などから発射される空対地ミサイルです。
相手レーダーの発する電波を探知しながら進み、敵が察知して電波を止めないようにマッハ3近い超音速で一気に接近します。ただし、命中精度は低くなるものの、レーダーが停止しても最後の発信位置を頼りに目標に向かうことは可能です。
その弾頭は大量の金属片をまき散らす爆風破砕型であり、広範囲にわたってレーダー施設などにダメージを与えつつ、目標捕捉に失敗した場合は、自爆して貴重な技術を敵の手に渡らせません。
このミサイルは4つのモードがあるなか、防空網制圧によく用いられる「PBモード」では事前把握した目標位置や微弱な発信元に対して攻撃できます。このとき、高高度から弾道を描くように発射すれば、射程距離を150km以上まで伸ばせます。
ほかにも、「SBモード」という自己防衛向けのがあって、母機の脅威になる地対空ミサイルなどを把握した後、最も脅威度の高い目標を攻撃します。
AGM-88を撃つF/A-18戦闘機(出典:アメリカ海軍)
実際の戦果としては、1991年の湾岸戦争で2,000発以上が使用された結果、トマホーク巡航ミサイルとともにイラク側の防空能力を完全破壊しました。また、アメリカはコソボ紛争やイラク戦争でも多く撃ち込み、序盤で圧倒的な航空優勢を確保しました。
最近では、ロシアの侵略を受けたウクライナに供与されたところ、ロシア軍のレーダーや防空ミサイルを多数破壊しています。
ロシアは初戦での航空優勢確保に失敗して、その後も実現できていない状況が続きましたが、AGM-88の登場によって可能性はさらに遠のきました。ちなみに、AGM-88は西側諸国での運用を前提としているので、旧ソ連軍機で使ったのはウクライナが初でした。
対中国を見据えた「G型」
最新型の「AARGM(E型)」では、赤外線画像による探知能力も追加されて高精度化が図られ、敵がレーダーを停めても引き続き誘導できるようになりました。
一方、これには新しくNATOに加わった旧東側諸国への誤爆回避という目的もあります。
もともとソ連製レーダーを想定して作られたAGM-88は、冷戦終結後も旧ソ連装備を使う旧東側諸国に対する識別能力が求められたのです。ただ、性能が向上したおかげでコストも増え、「E型」の価格は1発あたり約1.2億円となっています。
さらに、次世代の「AARGM-ER(G型)」が開発されており、F-35ステルス戦闘機(F-35Bは対象外)への搭載が見込まれるほか、新型エンジンを採用して射程を250〜300km、速度もマッハ4.0近くまで伸ばすつもりです。
こうしたアップグレードは、アメリカが中国の接近阻止・領域拒否戦略(A2AD)を突破するには対レーダーミサイルの能力強化が欠かせないと認識した結果でしょう。
コメント
Thank for shring your thoughts on アメリカ軍.
Regards