海上自衛隊・敷設艦「むろと」の謎に包まれた任務とは?

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対潜探知網を作る機密船

海上自衛隊の中で「隠密」といえば潜水艦ですが、実はその潜水艦よりも機密性が高いとされるのが観測機器や潜水艦の音を拾う装置を海底に設置する「敷設艦」と呼ばれる存在です。

太平洋戦争での苦い経験から対潜の鬼となった海自にとって、敷設艦は音響測定艦、そして海洋観測艦と並ぶ機密の塊であって、艦内を含めてその詳細はほとんど知られていません。

⚪︎基本性能:敷設艦「むろと」

排水量 4,950t(基準)
全 長 131m
全 幅 19m
乗 員 110名
速 力 16ノット(時速30km)
装 備 ケーブル敷設装置
海洋観測装置など
価 格 284億円

2013年に就役した「むろと」は海自唯一の敷設艦として海洋観測・水中聴音装置、そしてこれらが収集したデータを送信するケーブルを敷設するのが主任務です。

対潜戦では電波ではなく音波がカギを握りますが、厄介なことに音波は水温や塩分濃度、水深などによって伝わり方が変わるので継続的な観測を通じた水中環境の把握が欠かせません。

また、重要海峡を中心に固定式のソナーを置いて敵潜水艦の情報を集めることで対潜戦における優位性を確保できます。

そもそも、船は人間の指紋と同様にスクリューやエンジンから出る音がそれぞれ微妙に異なるため、この「音紋」と呼ばれる特徴を掴んでおくと各潜水艦の識別が可能となります。

したがって、これら音紋を集めるための固定式ソナーや水中環境を知るうえで必要な観測機器を設置する「むろと」は単艦で海自全体の対潜活動を支える超重要な存在なのです。

対潜監視に必要なこれら装置を正確に敷設するためには細かい動きが求められますが、「むろと」は横方向に艦を動かすバウ・スラスターやスクリューを360度回転させて艦自体を任意の方向に移動できる「アジマス・スラスター」を採用することで極めて高い運動性能を誇ります。

もし運良く「むろと」が出入港する場面を見られたら、他艦艇とは異なる「変態的」な動きに驚くでしょう。

海保にも内緒で活動

このように機密性・運動性が高い「むろと」はグアム島沖で毎年実施している敷設訓練を除いてその活動内容がほぼ謎に包まれています。

以前、NHKスペシャルのクルーが海上保安庁の巡視船に同乗したとき、偶然「むろと」と遭遇しましたが、「むろと」は船舶の識別装置を切って活動していたうえ、怪しんだ海保からサーチライトを照らされても応答しませんでした。

偶然テレビカメラに捉えられたこの一件からも分かるように「むろと」は海保すら知らない隠密行動をとっているのです。

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