悲願の国産潜水艦
長年にわたって中国共産党と対峙してきた台湾は、軍事力強化に努めてきた歴史を持ち、外国製兵器の購入とともに国産開発を進めてきました。
しかし、海軍力では急拡大する中国海軍に差をつけられる一方で、もはや海上優勢の確保が絶望視されているほど。
海上戦力で劣勢な場合は、隠密性に優れた戦略兵器である「潜水艦」を活用するのが有効であり、優勢な敵に心理的不安を与えるのみならず、その行動を制約できます。
しかし、台湾にはこの弱者の味方といえる潜水艦が2隻しかなく、それもオランダから1980年代に買ったもの。それ以外にも2隻の訓練用潜水艦を持っていますが、こちらにいたってはアメリカが第二次世界大戦時に建造した「超」旧式艦。
もちろん、台湾海軍も潜水艦戦力の近代化を試みてきましたが、中国の妨害と圧力によって外国からの新規購入ができませんでした。
そこで、技術支援を受けながら自主建造を目指す方針となり、2023年9月に台湾初の国産潜水艦「海鯤(ハイクェン)」が進水しました。
- 基本性能:「海鯤級」潜水艦
排水量 | 2,500t |
全 長 | 約70m |
乗 員 | 不明 |
速 力 | 不明 |
深 度 | 約350〜420m(推定) |
兵 装 | Mk48 530mm魚雷 ハープーン対艦ミサイル |
建造費 | 約1,800億円 (将来単価は900億円の見通し) |
待望の新型潜水艦は、設計的にはオランダ潜水艦の影響を受けつつ、海上自衛隊の「そうりゅう型」潜水艦と同じ「X字型」の舵を採用しました。そして、ディーゼル・エンジンによる通常動力型ではあるものの、最新のリチウムイオン電池も搭載しています。
主武装のMk48魚雷とその関連システムは、トランプ政権下のアメリカによって売却されたもので、戦闘システムやソナー技術もアメリカ製との報道がありました。
また、一部技術はイギリスから輸入したとされており、こうした技術支援のおかげで停滞していた自主建造が実現したわけです。
日米にとってはプラス
計8隻が建造されるこの新型潜水艦によって、台湾海軍は劇的な戦力強化を果たす一方、仮想敵の中国海軍にとっては脅威が高まりました。そのため、中国はこの自主建造を激しく非難していて、中国海軍がまだ苦手とされる対潜能力の引き上げを急かされた形です。
もちろん、これは日本にとってはプラスに働きます。
対中国の観点でいえば、台湾は潜在的同盟国にあたり、自主防衛力を高めるのは大いに歓迎すべきです。むしろ、今回の新型潜水艦による8隻体制が無事に完成すれば、日米豪韓と合わせて中国海軍の潜水艦戦力を「質・量」の双方で上回る結果となり、かなり強力な抑止力を構築できます。
日本も関与したのか
さて、潜水艦というのは兵器開発のなかでも極めて技術的ハードルが高く、高性能艦を量産できる国はそう多くありません。
いくら半導体技術などで定評のある台湾でも、潜水艦建造は別次元の技術力が求められるので、対中国を意識した国々の技術関与があったのは確実でしょう。
一説では米英に加えて、オーストラリア、韓国、インド、カナダ、スペインからもエンジニアと元潜水艦乗りを集めたとされ、本当ならば今回の潜水艦は多国籍プロジェクトの結晶といえます。
こうした憶測が飛び交うなか、蔡英文総統も出席した進水式典ではアメリカ、韓国、そして日本人も招待されているのが確認されました。
進水式での集合写真(出典:台湾総統府)
この事実を受けて、今回の建造には海自潜水艦を担当する三菱重工や川崎重工のOBも携わっているとささやかれました。「X字型」の舵を採用したり、台湾海軍の能力向上が日本にとっても有益なことを考えれば、関与していても不思議ではありません。
ただ、問題は日本政府が裏ルートで技術支援をしたのか、それとも日本人技術者が勝手に関わったのかという点。
日本と台湾は正式な国交がなく、おおっぴらには防衛協力ができない事情から、裏ルート経由でしか支援できません。
台湾の公式式典にいる時点で、さすがに日本政府も把握・了承済みと思いますが。
一方、日本は産業機密を保護する法整備が遅れているため、もし技術者の自由意志で関与したならば、政府および防衛省がどこまで把握していたのかが気になります。
しかも、中国側に情報が漏れていた疑いが浮上しており、技術流出の懸念がさっそく心配されます。
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