密漁を摘発する非武装船
日本の海で起きる事故や事件に対応するのは海上保安庁ですが、「密漁」に関しては水産庁の管轄になります。違法操業を摘発するのが水産庁の仕事であり、日本の排他的経済水域内で怪しい漁船を強制的に停船させたうえ、立入検査(海上臨検)を行う権限を持ちます。
よって、水産庁の漁業監督官は「特別司法警察職員」として海上保安官と同様に犯罪捜査権が与えられていて、水産庁単独での逮捕と捜査、送検が可能です。ただし、漁業監督官は海上保安官と違って銃火器は持っておらず、警棒や非殺傷型の装備しか許されていません。
こうした摘発と捜査を行うために水産庁版の「巡視船」に該当する「漁業監視船」が運用されているわけですが、こちらは放水銃のような非殺傷装備しかありません。
また、証拠として押収した水産物を保管する冷凍庫などがあるのも海保の巡視船と違う点ですね。
では、ここで最新の「鳳翔丸」を見ていきましょう。
- 基本性能:漁業取締船「鳳翔丸」
総トン数 | 2,141t |
全 長 | 87m |
全 幅 | 14m |
乗 員 | 40名 |
速 度 | 約25ノット(時速46km) |
航続距離 | 約20,000km(推定) |
装 備 | 電光掲示板、音響発生装置、 カラーボール発射装置、 放水銃×2、高速取締艇×2 |
建造費 | 約60〜70億円(推定) |
中国の海洋進出にともなって、中国漁船の違法操業も深刻化しているため、水産庁も近年は漁業取締船の増勢を図り、2022年に最新型で最大クラスの「鳳翔丸」が就役しました。
もともと遠方まで出動する前提の漁業監視船は航続距離と荒天に対する耐久性を重視してきたものの、「鳳翔丸」は長期航海をより意識した居住性を確保しました。
例えば、乗組員の居室を個室にしたり、女性専用の区画も設けるなど、居住環境の向上に努めました。特に個室の確保は同じく人手不足に直面する海上自と海保と比べて思い切ったと改革といえます。
ちなみに、漁業取締船は勤務時間外であれば、一定の飲酒が許されているので、このあたりも海自の護衛艦にはない大きな魅力でしょう。
⚪︎農水省の官僚Youtuberによる漁業取締船の紹介ビデオ
足りない数と海保との協力
新型の漁業取締船が登場したとはいえ、それでも水産庁の保有数はわずか「9隻」であり、民間から約35隻の小型・中型船を借り上げてやり繰りしてるのが現状です。
しかし、広大な日本の海を監視するには全く数が足りていないので、海上保安庁にも協力してもらっているわけです。
結局、違法漁船の拿捕といえば海保のイメージが強いのは、本来の担当である水産庁では手が回らず、海保の巡視船が数の上で目立つから。
都道府県にもある独自取締船
さて、水産庁の漁業取締船が違法操業の摘発を担うのはすでに説明したとおりですが、ここでややこしいのが「各都道府県も独自の漁業取締船を持っている」ということ。
こちらも基本的な役割は同じで、管轄する海域での密漁を摘発します。
ただし、こちらには漁業監督官ではなく「漁業監督吏員」というのが乗り込みます。とはいえ、この漁業監督吏員も監督官と同じように立入検査と逮捕、送検の権限を有する特別司法警察職員です。
一方、使用船舶については高速性を重視した小型艇が多く、違法漁船から発見されにくい灰色塗装が好まれます。これは白い塗装であえて目立たせて「抑止」する水産庁とは異なる点です。
このように知られている海上自衛隊、海上保安庁のほかにも、水産庁と各都道府県の漁業取締船が海の治安を維持しています。
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