戦後初の国産小銃
「小銃(アサルト・ライフル)」は軍隊の基本装備にあたり、自衛隊でも黎明期に国産化を目指した結果、「64式小銃」が誕生しました。
その名前のとおり、1964年に正式採用されたものですが、戦後初の国産自動小銃であって、豊和工業によって23万丁以上が生産されました。
- 基本性能:64式小銃
重 量 | 4.3kg(本体のみ) |
全 長 | 0.99m |
口 径 | 7.62mm |
発射速度 | 毎分500発 |
有効射程 | 約400m |
装弾数 | 20発 |
価 格 | 1丁あたり約20万円 |
自衛隊の創設まもない頃、警察予備隊の時代をふりかえると、旧日本軍の各種小銃とともに、米軍の中古品が混在していました。しかも、旧軍の小銃は暴発事故が多く、弾詰まりも起こしやすいなど、安全性に大きな問題がありました。
この諸問題を解消するべく、64式小銃が開発されたわけですが、その設計は日本人の体格に合わせました。
たとえば、米軍との互換性を考えて、NATO共通弾を採用しながらも、通常より装薬量を約10%減らしたり、小銃自体の発射速度もあえて緩めにして、連射時の反動とブレを抑えています。
そして、命中率を高めるべく「二脚」を持ち、ここに反動抑制の効果が加わり、採用時は「高精度な小銃」として期待されました。
さらに、7.62mm弾は強力なガス圧を使い、通常の対人攻撃のみならず、非装甲車両にも威力を発揮します。それゆえ、標準装備の二脚と合わせれば、携帯可能な軽機関銃にもなり、陸自が重視する防御戦闘に適していました。
整備性が悪く、使いにくい
古風な見た目にかかわらず、高い命中精度が期待されたとはいえ、実際の使い勝手はどうなのか?
まず、小銃としては頑丈なものの、後継の「89式小銃(3.5kg)」よりは重く、部品の多さが整備性の悪さにつながっています。
日頃の分解・手入れが欠かせない以上、整備性の良さは重要な問題ですが、64式小銃は専用工具がいるほか、部品が脱落・紛失しやすいのが難点です。
しかも、入念に整備しておかないと、射撃時に作動不良を起こしやすく、「ポンコツ」と酷評される要因になりました。
さはさりながら、経年劣化による個体差が生じやすく、その使用者によって賛否が分かれてきました。
海自・空自ではまだ現役(出典:海上自衛隊)
この重量・整備性の問題に加えて、あまり操作性も良くないとの意見が多く、特に安全装置の切替が問題視されています。「ア(安全)、タ(単発)、レ(連発)」の3つから選び、引っ張って回す珍しい構造のため、すばやい切り替えが難しいそうです。
なお、命中率について触れると、5.56mm弾を使う89式小銃と比べて、口径の大きい64式は反動が大きく、当たりにくいと感じる人が多いです。一方、ズッシリした特徴から逆に安定しやすい、二脚による軽機関銃として使えば、そこまで悪くないという意見もあります。
このあたりは使用者で異なるとはいえ、軽量で口径の小さい89式に慣れていると、使いにくいのは当然といえるでしょう。
そもそも、64式小銃は待ち伏せ攻撃など、主に防御戦闘を想定しており、市街戦のような近接戦闘には向いていません。
いまでこそ近接戦闘(CQB)を重視するものの、64式の開発時はあまり意識されておらず、あくまで1960年代の前提で考えねばなりません。
しかも、国産小銃の開発史という視点でみると、戦前の九九式短小銃以来の出来事になり、ほとんどノウハウがない状態から設計を行い、とりあえず「使える」レベルまで仕上げたわけです。この点をふまえれば、戦後初の国産小銃として「悪く」はありません。
重量や整備性、命中精度で課題はあれども、体格で劣る日本人が口径の大きいNATO弾を撃つべく、無理やり設計した事情を汲むと、多少の歪みは現れてしまいます。
まとめると、1960年代の防御戦闘に基づき、銃の方向性は間違っておらず、軽機関銃的な役割も果たせるものでした。ただ、その後の時代への適応力、工業製品としての汎用性、生産性は微妙です。
海・空では未だに主力
64小銃は陸海空の自衛隊に加えて、海上保安庁と警察でも一部導入しており、いまも現役で使われています。これは予算的に全面更新できず、64式自体の耐久性が優れているからです。
陸自の戦闘部隊は89式に移行したとはいえ、一部の後方部隊と予備自衛官の訓練では使うほか、多数が予備兵器として保管されています。陸自の高等工科学校、防衛大学校のような教育機関でも使い、いまだに海自と空自では「主力」扱いです。
たとえば、空自の基地警備隊では主力火器にあたり、海自でも特殊部隊の「特別警備隊」を除けば、標準装備として与えられてきました。
海・空の小銃更新は優先度が低く、今後もしばらくは現役続行になるなか、さすがに安全保障環境の悪化を受けてか、最新の20式小銃の配備が加速しています。

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