最速の二重反転プロペラ
昔からある長距離爆撃機といえば、アメリカのB-52が有名ですが、ロシアにも同様の存在がいます。それが1956年に運用が始まり、いまも現役で飛んでいる「Tu-95(ツポレフ95)」です。
NATOは「ベア(熊)」のコードネームで呼び、日本にも偵察・けん制目的で飛来します。
- 基本性能:Tu-95爆撃機
全 長 | 46.2m |
全 幅 | 50.1m |
全 高 | 12.1m |
乗 員 | 7名 |
速 度 | 最大時速925km |
航続距離 | 約15,000km |
高 度 | 約13,000m |
兵 装 | 23mm連装機銃×1 各種爆弾、対地・対艦巡航ミサイル |
ツポレフ95は敵地までの長距離を飛び、核爆弾を落とす戦略爆撃機にあたり、ソ連時代は核抑止の一翼を担いました。アメリカまで無給油飛行をすべく、約15,000kmの航続距離を誇り、長期パトロールと洋上哨戒にも使われてきました。
そして、ツポレフ95の特徴といえば、二重反転プロペラになります。
これは2枚のプロペラを左右逆方向に回転させて、より効率的な飛行性能を生み出すものです。このとき、プロペラの回転速度を抑えると、空気抵抗の減少につながることから、さらなる速力アップをもたらしました。
その結果、プロペラ機にもかかわらず、時速925kmの速さで高高度を進み、世界最速のプロペラ機とさえ言われています。ただ、プロペラの先端が音速より速く動き、これがひどい騒音を生み出すため、最もうるさい爆撃機のひとつに数えられました。
「東京急行」の常連さん
ツポレフ95は回転式の兵器倉(ウェポン・ベイ)を持ち、最大15トンもの爆弾を収容できるほか、1970年代には巡航ミサイルの発射能力を入手しました。機内には6発の長距離ミサイルが収まり、両翼下に追加で取り付ければ、最大14〜16発まで搭載できます。
余談ながら、あの人類史上最大の威力を誇り、世界最大の核爆弾の「ツァーリ・ボンバ」を投下したのも、特殊改造されたツポレフ95でした。
2000年代以降は近代化改修に取り組み、新しいミサイルに対応するとともに、電子機器を更新しました。一方、現代の爆撃機としては珍しく、機体尾部には23mm機銃が残っており、古めかしい印象に拍車をかけています。
ツポレフ95の搭載兵器例(出典:ロシア国防省)
機内は快適ではないとはいえ、その巡航飛行能力の高さから、冷戦中は10時間近い定期任務を週2回も飛び、NATO諸国への威力偵察はもちろん、日本周辺にも現れてきました。
対日任務では日本海上空に加えて、北から南下した東京に近づき、そのまま太平洋を飛行したり、日本列島を一周するケースがあります。
これに対して航空自衛隊がスクランブル発進を行い、戦闘機で出迎えるのが日常になり、わりと有名な爆撃機でした。冷戦でソ連軍機の飛来が「定期便」と化すなか、在日米軍などでは「東京急行」と呼び、ツポレフ95はその常連メンツだったわけです。
2040年頃まで使う予定
そんなツポレフ95は多くの派生型を生み、対潜哨戒型の「Tu-142」は海軍に、旅客機の「Tu-114」は民間航空会社で活躍しました。
最終的には爆撃機型だけ555機、対潜哨戒機型は600機にのぼり、シリーズ全体ではライバルのB-52を上回ります。
冷戦終結・ソ連崩壊後は財政難で数が減り、現在は55〜60機ほどになりました。稼働機数の減少を受けて、東京急行を含む活動は低調になったものの、近年は再び飛行回数が増えています。
たとえば、2010年代にはシリア内戦に参加したほか、2022年のウクライナ侵攻でも実戦投入されました。とても古い機体とはいえ、長距離ミサイルの発射母体としては役立ち、ウクライナでは対地攻撃を行うなど、空爆の元凶になっていました。
遠距離から撃ってくる以上、ウクライナ側もなかなか手を出せず、天敵として君臨していたところ、2025年6月には特務機関が破壊工作を行い、ドローンで飛行場を奇襲しました。その結果、駐機中の十数機が燃え上がり、ロシア空軍に大打撃を与えています。
いまも実戦投入されている
大きな損害を受けてもなお、費用対効果の観点をふまえると、あえて新型爆撃機を開発するよりも、使いつづけた方が安上がりです。
これはB-52と同様の理由ですが、運用コストが安いのみならず、ひと通りの問題点が判明している以上、運用・整備面でのノウハウが確立されています。
逆に新型機はトラブルが起きやすく、そのリスク覚悟で開発に挑むよりも、既存機を続投させた方が合理的なのです。
したがって、2020年には最新型の「Tu-95 MSM」が登場しており、ロシアとしては2040年頃まで使うつもりです。ところが、前述の攻撃で10機以上を失い、高くない稼働率を考えると、もはや爆撃機の体制として心許ありません。

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