何がすごい?核保有国が原子力潜水艦を目指す理由とは

原子力潜水艦 潜水艦
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理論上は半永久的に航行

潜水艦といえば、海中に隠れながら魚雷を放ち、神出鬼没の攻撃を仕掛けてくる厄介な存在です。

しかし、ひとえに潜水艦といえども、通常動力型と原子力の2種類があって、前者は主にディーゼル・エンジンで動くタイプです。海上自衛隊の潜水艦は全てこちらになり、通常動力型としては世界最高峰の性能を誇ります。

対する原子力は名前のとおり、原子力機関によって動きますが、ディーゼル式とは違って、浮上して空気を取り込んだり、バッテリーを充電する必要がありません。

それゆえ、理論上は半永久的に航行可能とされており、1960年にはアメリカの原子力潜水艦が潜航したまま世界を一周しました。

原子力潜水艦トライトン世界一周したトライトン(出典:アメリカ海軍)

ただし、乗組員が生身の人間である以上、食料が尽きたら航海は続けられず、長期潜航は乗員の士気・精神状態に悪影響を与えます。アメリカの原潜は90日分の食料を積み込み、寄港の機会がある度に補給する形です。

なお、原子炉は数十年おきに交換せねばならず、定期検査などでドック入りも欠かせません。それでも、電池残量が気になる通常動力型と異なり、その潜航可能期間は圧倒的に長く、水中での優位性を確保できます。

うるさいのが欠点?

一方、原潜もメリットばかりではなく、通常動力型と比べてコストが高いうえ、静粛性では劣ってしまいます。海の忍者といわれる潜水艦にとって、静かさは「生命線」であり、騒音は致命傷につながる短所です。

しかも、敵に見つかりそうになった場合、ディーゼル式は機関を停止すればいいところ、原子力機関は頻繁なオン・オフが難しく、基本的には出力調整しかしません。

このように原潜の方が「うるさい」とはいえ、最近は技術進歩で静粛性が高まり、以前ほど騒音は問題視されていません。

むしろ、優れた潜航能力を活かせば、定期浮上する通常動力型よりは見つからず、結果的に欠点を補って余りある状態です。多少うるさくても、海の中を常に航行していれば、相手はなかなか見つけられません。

死活的な反撃手段

さて、原潜は主に核保有国が持ち、核ミサイルを搭載していますが、これは原潜が核抑止に欠かせないからです。

核兵器は陸上基地や爆撃機から発射できますが、どちらも先制攻撃でやられる可能性があります。事前偵察で基地の場所は判明しており、反撃の機会を得られぬまま、いきなり全滅するかもしれません。

一応、先制攻撃を加えたとしても、ミサイルと爆撃機を全て破壊するのは困難です。1発でも残っていると、反撃で大きな被害を受けるため、簡単には手を出せないでしょう。

しかしながら、手段が陸上・空中発射型しかなく、その拠点を完全に秘匿できない以上、先制攻撃の誘惑は消えません。

仮に双方に核が100発ずつあるとしましょう。その居場所が全て分かっていれば、先制攻撃で相手の反撃能力を奪い、こちらの勝利を固められます。

ところが、お互いに同じ条件であるため、相手も先制攻撃を選ぶでしょう。こちらと同じく、やられる前にやるしかないわけですから。

では、100発の核兵器のうち、10発の所在が分からない場合、どうなるでしょうか。

おそらく、居場所不明の10発への不安が高まり、先に仕掛けるインセンティブが減ります。相手に反撃手段があると、先制攻撃への誘惑が減って、衝動的な気持ちが薄れます。

核抑止の図

この反撃用の10発を担うべく、原潜は「第二撃能力(第二次報復能力)」の役目を与えられます。長期潜航できる原潜は詳細位置がつかめず、いつ・どこから核ミサイルを撃ってくるか分かりません。

疑心が生むためらいとともに、核による相打ち状態を生み、先制攻撃の意味をなくします。たとえ地上ミサイルや爆撃機を破壊しても、原潜による核の反撃を受けるのですから。

その結果、相互関係の安定につながり、いわゆる抑止状態が生まれます。

ミサイル・爆撃機→潜水艦

だからこそ、核開発は爆弾やミサイルから始まり、次に潜水艦への搭載を目指してきました。地上配備型のみでは脆弱性が否めず、潜水艦型で相手に破壊されない反撃手段を持ち、相互抑止状態を作り出します。

これは冷戦期に生まれた抑止の構図ながら、その本質は現在も変わっておらず、実際に北朝鮮はミサイルを搭載すべく、新しい潜水艦を建造しました(技術的には未完だが)。

当然、原潜は第二撃能力を担う以上、敵に見つかってはならず、各国は「聖域」を確保してきました。

聖域とは敵の侵入や偵察を拒み、自分の原潜を隠匿できる海域のことですが、それなりの深さと面積を持ち、自国の影響力がおよぶ場所でなければなりません。たとえば、ロシアではバレンツ海、オホーツク海が聖域にあたり、北方領土付近は後者の入口であることから、そう簡単には返還できません。

一方、中国は南シナ海を聖域化するべく、軍事基地を作って他国を排除してきました。南シナ海は原潜基地の海南島から近く、水深も十分に隠れられるレベルです。

仮に原潜がいる海域が分かっても、そこに近づけなかったり、詳しい位置が分からないと、あまり意味がありません。

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