スパイの諜報、情報戦?インテリジェンスとは何か

黒い影の男 外交・安全保障
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いろんな情報収集手段

さて、諜報・防諜を問わず、情報活動で使う手段にはいろいろあって、ここでは主だった4つを紹介します。

インテリジェンスの説明図

オシント(OSINT)

まずは、オシント(OSINT:Open Source Intelligence)について。

これは公開情報を情報源にしながら、そこから必要部分を抽出したり、読み解いていく手法です。ここには公式文書はもちろん、新聞や雑誌、書籍、ネット情報なども入り、あらゆる情報活動の基礎になります。

実際のところ、現代インテリジェンスの大半はオシントが担い、傍受や暗号解読はそこまで占めていません。つまり、情報源の大部分はその辺に転がっているわけですが、あまりにも膨大な量で不要な箇所も多く、その収集と選別作業は難易度が高いです。

当然、発信者はこちらが公開情報を使い、そこから分析しているのを知っており、それを理解したうえで出しています。そもそも、情報とは何かしらの意図を含み、あえて公開情報の中に混ぜれば、さりげなく相手に伝達可能です。

だからこそ、外交・防衛白書などの公式文書を読むと、諸外国に伝えたいことが分かります(逆も同じ)。ただし、そのまま書いてくれるとも限らず、文書をよく読み込み、その真意を測らねばなりません。

一例をあげると、米中首脳会談後に共同声明が発表されたとします。そこでは以下のようなことが書かれていました。

両国は米中関係の重要性を再確認するとともに、テロ対策や人道支援、世界経済の安定に向けた協力について合意した。

一見すると、会談は問題なく行われたうえ、両国の協力促進が実現したと読めます。

しかし、書いたあるのは「当たり前」の内容にすぎず、当たり障りない文書ともいえます。そして、米中協力もテロ対策・人道支援など、ほぼ対立しようがない分野ばかりです。逆にいえば、それ以外の点では合意を見出せず、肝心の部分では進展がなかったと読み取れます。

これは簡単な例ですが、公開情報を読み解くとはいえ、あまり額面通りには受け取れず、深読みと分析が必要というわけです。

シギント(SIGINT)

次にシギント(SIGINT:Signal Intelligence)。

これは通信傍受による情報収集のことで、電話やメールの監視から各種電波の傍受まで含み、情報量の多さではオシントに負けません。最近はAI分析も増えたとはいえ、結局は多くの人員がいるのは変わらず、意外に人的負担がかかる作業です。

有名例では「エシュロン」という傍受ネットワークがあります。アメリカを中心にしながら、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが加わり、その傍受網を全世界に広げてきました。

シギントで大事なのは、相手の通信暗号を解くとともに、傍受していることを隠すことです。ところが、アメリカは仮想敵国は言うまでもなく、日独仏などの同盟国も盗聴しており、定期的にバレて問題視されています。

イミント(IMINT)

3つ目はイミント(IMINT: Imagery Intelligence)ですが、これはジオイント(GEOINT)とも呼び、画像から情報を得る手法です。

主に偵察機や人工衛星で写真を撮り、地上の様子を分析していく形ですが、ここではカメラ機材の性能に加えて、撮影の連続性も重要になります。最新の偵察衛星を使えば、数十cm単位まで識別可能とはいえ、1枚のみでは「変化」が分かりません。

その場所がどう変わったのか、相手がどう動いたかを知るべく、通常は連続的な観測が行い、同じ場所を撮り続けねばなりません。

ヒューミント(HUMINT)

最後にヒューミント(HUMINT:Human Intelligence)について説明します。

これは人間が集めてくる情報のことであり、いわゆるスパイ経由だけでなく、一般人からの聴取も含まれます。

注意したいのが、ジェームス・ボンド(007)のような者は少なく、大抵は外交関係者や駐在武官を装いながら、公式の場で情報交換してきました。情報交換である以上、それあギブ・アンド・テイクが基本になり、慎重な駆け引きが求められます。

彼らはケース・オフィサーとして、派遣先で情報戦を繰り広げつつも、「影の外交官」として活躍します。日本ではロシアのスパイが入り込み、たびたび国外退去の処分をくらいますが、そのほとんどは大使館付きの職員です。

一方、現地の協力者(エージェント)は「裏ルート」に近く、彼らは報酬と引き換えに情報収集します。ケース・オフィサーは表舞台にいる限り、監視の目からは逃れられず、代わりにエージェントを雇って、現地の情報を聞き取ります。

よく公園などで老人と落ち合い、お互いに他人のフリしたまま、話すシーンがありますが、この時の老人こそがエージェントです。

ヒューミントでは情報源が特定されてはならず、ケース・オフィサーは必ずエージェントを守り、その情報を第三者に渡す場合、情報提供者の了承を得ねばなりません。

スパイになる4つの理由

ところで、本国から派遣された職員はともかく、現地人がスパイになる理由は何でしょうか?普通は情報提供者になる動機がなく、わざわざ逮捕のリスクを冒してまで、外国のためにスパイしません。

主に4つの動機があるとされており、雇う側はこれらを巧妙に突き、現地人を勧誘してきました。

インテリジェンスの説明図

まずは「Money(お金)」です。単純で分かりやすく、金銭報酬というニンジンをぶら下げて、相手を買収する古典的な手法です。

次は「Ideology(イデオロギー)」になり、政治思想や信条を利用しながら、相手をこっちに寝返らせます。第二次世界大戦前後と冷戦期を通して、共産主義思想に共鳴した結果、ソ連に取り込まれる人が相次ぎました。

3番目は「Coercion(強要)」、もしくは「Compromise(妥協)」。これは相手の弱みにつけ入り、脅迫で協力させることです。ハニートラップが有名とはいえ、前述の金銭報酬(Money)を渡したあと、それを理由に脅すケースもあります。

最後は「Ego(エゴイズム)」ですが、相手の自尊心や承認欲求をくすぐり、その性格を心理的に利用します。

たとえば、何か大きな役割を果たしたり、くすぶる気持ちを晴らしたいという心情。あるいは祖国に対して不満を持ち、見え返してやりたい想い。これらを巧みに突けば、相手を自然と協力者に誘導でき、本人も喜んで働くでしょう。

以上が4つの動機たる「MICE」ですが、どれかひとつに絞るのではなく、複数を組み合わせながら、効果的に情報提供者を確保します。

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