いまやるべきなのか?自衛隊の階級・職種の国際標準化

自衛官の階級章 自衛隊
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呼び名をNATO式に?

自民党と維新の会の連立にともなって、安全保障政策の検討も合意文書で決まり、その中に「階級、服制、職種の国際標準化」があります。

これを2026年度中に行い、自衛隊を諸外国に合わせるそうですが、具体的には何を指すのか?

服制の詳細は分からないものの、階級は旧軍式の呼称に戻り、現行の「1佐」「将補」ではなく、「大佐」「少将」に変更すると思われます。

自衛隊独特の「1〜3等〇〇」の呼び名をやめて、NATOの階級表に合わせるわけです。職種も普通科が歩兵に変わり、特科も同じく砲兵と呼び、その延長で護衛艦は駆逐艦になるもしれません。

要は「普通」の呼び方に戻り、方針そのものは賛同すれども、いまやるべきかは疑問です。

たしかに、階級表・職種をNATO式に改めると、運用上は好都合かもしれません。しかし、現行の呼び方は国内向けにとどまり、対外的には国際標準化が進み、米軍に合わせてきました。

先ほどの例に戻ると、普通科の英語表記は「Infantry(歩兵)」、特科は「Artillery(砲兵)」と書き、本来の意味に即した名前を使っています。

海上自衛隊は海外派遣において、自らを「Japan Navy(日本海軍)」と名乗ることが多く、階級も英訳版は諸外国に合わせるなど、ほとんど訓練上の支障はありません。

結局のところ、国内外で使い分けているにすぎず、呼称の変更は国内向けの課題として、保守層・支持者へのアピールでしょう。

そもそも、自衛隊の階級表は独自色が強いとはいえ、世界的にはそこまで珍しくはなく、他国でも似た例はたくさんあります。

階級はイギリスの「代将」、イタリアの「上級大尉」、中国の「上将」。

職種はドイツの「擲弾兵(歩兵)」、イギリスの「王立竜騎兵(戦車)」など、意外に各国で呼称は変わり、NATOの対応表に準拠しておけば、実際はそこまで困りません。

なお、同じ階級にもかかわらず、陸・海で呼称が違うことは多く、アメリカ軍の例をあげると、陸軍で大佐は「Colonel(カーネル)」ですが、海軍では「Captain(キャプテン)」になります。

むしろ、「少〜大佐・大将」に統一した点に限ると、旧日本軍は先進的な部類に入り、この点だけは陸・海の統合を実現していました。

少し話が逸れましたが、自衛隊の階級は独特ではあるものの、英語表記を合わせている以上、特に運用上の問題は起きません。

合わせる利点はあるが

一方、将官クラスに限っていえば、他国の「少将・中将・大将」と異なり、自衛隊には「将補」「将」しかいません。通常より1つポストが少ないため、カウンターパートに合わせるのが難しく、同格をあてるのに苦労してきました。

たとえば、米軍の中将と一緒に仕事する場合、「将補」では同格とはいえず、「将」も役職次第では相手を超えるなど、なかなか釣り合いません。

されど、このような「ポスト問題」を除くと、急いでやるべき理由はありません。

優先事項なのか

階級表・職種の刷新となれば、それは全ての自衛官(22.5万人)におよび、途方もない変更作業、行政手続きが待っています。その処理は現場の自衛官が担い、ただでさえ普段の業務で忙しいなか、いたずらに負担を増やすだけです。

一度やれば済むとはいえ、すでに任務で忙しいにもかかわらず、業務量を増やす余裕などあるのか。少なくとも、現状のあらゆる課題をふまえると、決して優先順位が高いとは思えず、本質的な改善になるとは思えません。

これは「名誉」の話にもつながり、「軍人」にとっては大事ですが、自衛隊自身は階級表、職種の呼称をどう思っているのか?

旧軍式、米軍式の呼称にあこがれを抱き、今回の動きを歓迎する自衛官はいるでしょう。しかし、それが大多数の意見、優先事項かどうかは怪しく、士気向上につながるかは分かりません。

自衛隊は事実上の軍隊といえども、働く人にとっては「仕事」であって、結局は待遇改善に取り組み、いわゆる実利的な部分に尽きます。

呼称が2曹から軍曹になるよりも、きちんと代休・有給を消費できたり、給料が上がる方が断然嬉しく、モチベーションを高めるはずです。仕事面では草刈りの回数、無駄な行事を減らす、実弾射撃の訓練を増やす、決裁の手続きを簡素化するなど、現場が求める改善点は別にあります。

また、自衛隊の階級・職種名に限らず、なにかと旧軍と比較されがちですが、自衛隊自体に誇りを持つべきでしょう。

自衛隊は発足から70年以上が経ち、その歴史・伝統は旧日本軍を超えました。旧軍が対外進出と政治介入を繰り返して、最終的に亡国にいたった歴史を考えると、自衛隊の歴史はその真逆といえます。

ひとりの戦死者を出すことなく、70年以上も平和を守り抜き、国民の信頼を勝ち取りました。旧軍のような実戦経験はなくとも、この事実はもっと誇るべきであって、この関連で階級・職種に言及すれば、むしろ独自の呼称は広く浸透しています。

たとえ大佐を1佐と呼び、歩兵が普通科であっても、70年という3世代にわたる時間をかけながら、自衛官と一般国民に定着してきました。

今回の議論をふり返ると、「自衛官が望むことは何か?」の視点が見当たらず、政治家が自身の理想を押し付けても、それはありがた迷惑でしかなく、逆に士気の低下を招きます。

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