2003年から運用開始
軍事作戦を始めるうえで、偵察を含む事前の情報収集が欠かせず、この分野における能力差・精度がしばしば勝敗を分けてきました。あのアメリカ軍が圧倒的な強さを誇るのも、その卓越した情報収集能力によるところが大きいです。
いまは航空機やドローンを飛ばしたり、相手の電波を分析する手法があるなか、やはり大きな優位性をもたらすのは人工衛星になります。
宇宙空間から一方的に見下ろして、しかも細かい部分までとらえられるため、「イヤな存在」であるとともに、その保有を目指すのが自然です。
日本も、1970年代に国をあげて本格的な宇宙開発に取り組み、1994年には国産ロケットの打ち上げに成功しました。しかし、これら宇宙事業は主に技術開発・商用を目指したもので、あまり軍事要素はありませんでした。
それを変えたのが、1990年代末の北朝鮮による弾道ミサイルの発射です。
「テポドン」が日本上空を通過したのを受けて、日本も人工衛星で事前偵察を行うべきとの声が上がりました。
こうして2003年には日本初の情報収集衛星(偵察衛星)を打ち上げ、その後は交換用も含めて19基が投入されました。じつは情報収集衛星は約5〜6年しか持たず、常に新しいもので更新せねばなりません。
よって、2003年からほぼ毎年打ち上げたとはいえ、いま稼働しているのは9基になり、これらを維持すべく、毎年約800億円の費用をかけてきました。
その運用は防衛省と思われがちですが、実際には内閣官房に属する「内閣衛星情報センター」が担当しています。
そうは言いながらも、情報センターは防衛省のすぐ裏にあり、その所長は自衛隊の元将官が務めてきました。また、その運営委員会には防衛省、警察庁、公安調査庁、外務省などが参加しています。
十分すぎるその偵察能力
では、この情報収集衛星とは一体どのようなものなのか?
具体的には、光学衛星とレーダー衛星の2つに分かれており、それぞれを組み合わせながら偵察します。
まず、光学衛星は高性能カメラで地上の写真を撮り、かなり詳細な様子まで分かるとはいえ、悪天候や夜間ではあまり使えません。
こうした状況下では電磁波を当てたあと、その反射波で地形などを検出するレーダー衛星が適任です。ただ、その複雑さから値段が高く、どちらも一長一短であるがゆえに、両者を組み合わせてきました。
2013年には「光学衛星×2、レーダー衛星×2」の計4基体制になり、高度数百kmから地球のあらゆる地点を毎日1回以上は撮影できるようになりました。
打ち上げられる偵察衛星(出典:三菱重工業)
では、その能力はどれほどのレベルなのか?
理科で使う顕微鏡と同じく、光学衛星は分解能が重要になりますが、日本の衛星は約30〜50cm級の分解能を持ち、宇宙空間から30cm単位の写真を撮れるわけです。
この点に限れば、アメリカの衛星とさほど変わらず、光学衛星としては十分すぎる性能を持っています。
とはいえ、せっかく得た情報を活かすには、きちんと分析できる能力が欠かせず、このあたりのノウハウはアメリカにはおよばず、日本はまだ発展途上です。
ちなみに、2024年正月の能登半島地震のとき、災害前後の地形の変化をとらえた衛星写真が公開されましたが、このとき使われたのが光学衛星です。
その写真を見て、解像度の低さを指摘する声がありましたが、これは的外れな批判でした。
なぜならば、情報収集衛星の性能は最高クラスの国家機密にあたり、公開された写真はわざと解像度を落としているから。地形の変化を知りたいときに、わざわざ十数cm単位の細かい写真を撮る必要はありません。
能登半島の地形を写した衛星画像(出典:内閣官房)
一方、レーダー衛星の方が機密としては「上」であって、残念ながらその性能は不明です。しかし、最低でも光学衛星と同等レベルの能力を持ち、日本の科学技術力を考えれば、厚い雲に覆われた向こう側をそれなりの精度で見通せるでしょう。
20年前と比べて、カメラを含む技術は飛躍的な進化を遂げており、日本の情報収集衛星も2003年時と現在では雲泥の差です。また、実際にはアメリカとも連携しながら偵察するため、単独で全能レベルの偵察体制を作る必要はありません。
この辺は中国やロシアと違って、やはりアメリカを中心とした広い同盟ネットワークにアクセスできる利点になります。
将来的には10基体制に
さて、2013年に4基体制は完成したものの、やはり1日1回の撮影能力では足りず、現在は「光学衛星×4、レーダー衛星×2」まで増強されました。
これにより、1日4回ほどは撮影できるようになり、さらなる能力強化を図るべく、今後は10基体制になる予定です。
たしかに、ミサイルの打上げ準備や軍部隊の集結など、大まかな軍事的動向をつかむには1日1回の撮影でも問題ありません。ところが、兵器自体の機動性が高まり、テロや災害も頻発する状況では、もっと頻繁に情報をアップデートせねばなりません。
そこで、10基体制に増やせば、特定地点を毎日8回以上は撮影できるほか、より鮮度と精度が高い情報を得られるでしょう。ただし、10基体制とはいいつつも、これには偵察衛星のみならず、観測データを地上に送るデータ中継衛星も含まれます。
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