本来は米軍の訓練場
南西諸島の防衛力強化を目指すなか、鹿児島・馬毛島(まげしま)に注目が集まり、現在は約1兆円の工費をかけながら、新しい自衛隊基地を建設中です。
馬毛島は種子島の西方10kmに浮かび、面積が約8.2㎢(周囲16.5km)の無人島ですが、中国海軍も通る大隅海峡に面しており、その警戒監視の拠点として使えます。
ただし、自衛隊基地が建設されるとはいえ、実際は米軍の空母艦載機の離着陸訓練に使い、あくまで訓練拠点になる予定です。
通常の滑走路とは違って、空母の飛行甲板は極めて短く、あらかじめ陸上訓練で経験を積み、十分な技量を習得せねばなりません。
この陸上での離着陸訓練は「FCLP」と呼び、滑走路を飛行甲板に見立てながら、ひたすら短距離での着陸・離陸に取り組み、いわゆる「タッチアンドゴー」を繰り返します。
たとえ経験豊富なパイロットであっても、空母からしばらく離れていた場合、FCLPで感覚を取り戻さねばなりません。
在日米軍の空母艦載機は岩国基地にいるため、現在は1,400km離れた硫黄島まで飛び、そこでFCLP訓練を繰り返しています。問題は硫黄島はアクセスが悪く、訓練の都合上は不便な点です。
また、岩国には米海兵隊のF-35Bもいますが、彼らも訓練時は沖縄県・伊江島まで出向き、そこの補助飛行場でFCLPを実施しています。ところが、これも1,200km近く離れているほか、訓練時は伊江島飛行場のみならず、普天間や嘉手納基地に降り立ち、沖縄県に負担をかけてきました。

こうした距離の問題、沖縄の負担軽減を解消するべく、馬毛島に新たな訓練基地を作り、そこで在日米軍のFCLPを受け入れますが、硫黄島と伊江島の訓練施設を統合した感じです。
種子島に隣接しているとはいえ、馬毛島には人間は誰も住んでおらず、岩国からは400kmしかありません。
種子島の住民に対する影響、生息する野生のシカ問題を除けば、日本政府としては最適解に映りました。沖縄の負担軽減につながり、有人島で訓練するよりはマシ、というわけです。
自衛隊には好都合の場所
そんな馬毛島は平坦な地形を持ち、そこに長さ2,450mの主滑走路、長さ1,830mのサブ滑走路とともに、訓練施設と桟橋、港湾施設、燃料タンクなどを設けます。
航空基地である以上、航空自衛隊が管理・運用を担いますが、あくまで訓練施設であることから、戦闘機のような航空戦力は常駐せず、普段は約200人で運営するそうです。

出典:防衛省
されど、地理的には九州と南西諸島を結び、民間人が住んでいない点を考えると、在日米軍のFCLPだけではなく、自衛隊の活動に使わない手はありません。国内の他の場所に比べると、地元への配慮が少なく済み、思い切って訓練できるといえます。
それゆえ、米軍のFCLPという主目的はあれども、馬毛島は自衛隊の訓練拠点にふさわしく、防衛省は積極的に活用する意向です。たとえば、「いずも型」護衛艦の空母化を受けて、空自は42機のF-35B戦闘機を導入しますが、これらは宮崎県の新田原基地に配備します。
米海兵隊のF-35Bと同じく、「いずも型」では短距離離陸をせねばならず、FCLPの訓練が欠かせません。そうなると、米軍と同様の訓練施設が必要ですが、馬毛島は新田原基地に近く、ちょうどいい具合に活用できます。
すなわち、本来は米軍向けのFCLP施設とはいえ、「いずも型」の空母化にともなって、空自でもFCLPの必要性が浮かび、馬毛島は日米共同の訓練拠点になる形です。
決して「要塞」ではない
なお、桟橋には海上自衛隊の護衛艦が入り、輸送艦向けの揚陸施設も備えているため、有事では重要な中継拠点になるでしょう。
地理的には水陸機動団のいる佐世保、V-22オスプレイがいる佐賀空港に近く、本土から沖縄に展開するにあたって、馬毛島に人員・物資を集積したり、戦力の編成を行えます。
逆に沖縄から緊急避難させる場合、同様に馬毛島を活用する可能性は高いです。特に航空機は地上で駐機中に狙われやすく、開戦と同時に空中退避せねばなりません。さもなければ、そのまま地上で撃破されてしまい、せっかくの戦力を発揮できません。
空中退避後は別の基地に向かい、そこで戦力温存と再編をするわけですが、馬毛島は有力候補のひとつになるでしょう。那覇基地の戦闘機が馬毛島まで一度退き、初戦での全滅を避けるシナリオです。
ただ、地理的には大隅海峡をにらみ、九州と沖縄の中継拠点になるため、敵に狙われる可能性が高く、初戦で守り切れるかは分かりません。
なぜならば、世間が持っているイメージとは違い、馬毛島基地は訓練施設にすぎず、現時点では防空ミサイルすらありません。航空基地が本質的に抱える脆弱性、馬毛島の有用性をふまえると、さすがに地対空ミサイルは配備すべきですが。
ともかく、訓練施設がメインなのは変わらず、ちまたで言われるような「要塞」ではありません。
平時は地対艦ミサイルどころか、地対空ミサイルすら置いておらず、有事で緊急展開するぐらいでしょう。その実態は要塞化からは遠く、滑走路を備えた航空基地に港湾施設を加えた感じです。
一方、最前線から適度に離れている分、馬毛島は後方支援には使いやすく、本土と沖縄を中継拠点としてつなぎ、前線を補完する役割を果たします。基地建設は2023年に始まるも、人手・資材不足で遅れが生じてしまい、いまのところ2030年3月に完成予定です。


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