海上自衛隊が導入する12隻の1,900t級哨戒艦とは？

初の哨戒艦は沿岸警備用

海上自衛隊は日本の海を守る以上、近海のパトロールも普段から欠かさず、その任務には地方隊（いわゆる「2桁番号の護衛隊」）の旧式護衛艦を投入してきました。

ところが、いま活躍中の「あぶくま型」護衛艦は老朽化が進み、最近は「もがみ型」フリゲートが登場したものの、これは海外派遣を含む機動運用もされるため、新しい沿岸警備艦が必要になりました。

そのため、海自は初めて計12隻の「哨戒艦」を造り、平時の哨戒監視にあてがうことにしました。1隻あたりの建造費は約90億円とされており、1番艦は2026年に就役予定です。

• 基本性能：海自哨戒艦（艦名未定）

新型哨戒艦の概要（出典：防衛省）

新型哨戒艦には約30名の乗員が乗り込み、1門の30mm機関砲を搭載するほか、不審船などを長時間監視する無人機も運用します。

物足りない感があるとはいえ、その役割は沿海域での警戒監視・港湾警備であって、そもそも本格的な戦闘は想定していません。最低限の自衛用として機関砲、状況次第で12.7mm機関銃を追加すればよいという考えです。

それゆえ、海上保安庁の巡視船の上位互換という感じに近いかもしれません。

護衛艦とは異なり、SH-60哨戒ヘリのような艦載機は搭載しておらず、あくまで無人機・無人艇を用いる方針です。さはさりながら、艦後部の多目的甲板はヘリの離着艦にも対応しており、小型ながらもマルチ能力を確保しました。

能力的には警戒監視を行うには申し分なく、武装漁民のように巡視船の手に余る「低劣度脅威」に対処するには適任です。

加えて、汎用護衛艦を警戒監視やグレーゾーン事態から解き放ち、ほかに回す余裕を生み出します。増えゆく任務と中国海軍への対応に追われるなか、12隻の哨戒艦がそろえば、他の護衛艦の負担を少しは軽減できるでしょう。

海外派遣の可能性も？

新型哨戒艦は基本的には沿海域警備を担いますが、その活動範囲は日本近海にとどまらず、海外派遣という可能性も捨て切れません。

小さな哨戒艦といえども、その国を代表する立派な「軍艦」であって、使い方次第では低コストでプレゼンスを示せます。

たとえば、イギリスはインド太平洋地域への関与をアピールすべく、2隻の哨戒艦をシンガポールに常駐させています。これらは警戒監視や海賊対策、災害派遣などに取り組み、小規模ながらもイギリスのプレゼンスを示してきました。

海自哨戒艦は船体の揺れを抑える「アクティブ減遥装置」を持ち、船内居住性や外洋航行性を確保しました。

むろん、これは日本周辺での長期監視に備えたものですが、規模や装備面で似ている英哨戒艦のケースを考えれば、日本のプレゼンスを示す「海軍外交」も不可能ではありません

日本も「自由で開かれたインド太平洋」を目指す以上、これまでのように自国周辺だけで活動するわけにはいかず、責任ある国際社会の一員として、遠方での国際協力活動にも取り組まなければなりません。

この点において、哨戒艦は低コストで国際貢献するひとつの選択肢にはなり得るでしょう。ただ、近海警備用の哨戒艦を遠方投入すれば、汎用護衛艦の負担軽減という目的から逸脱しかねず、そのあたりの按配が難しいのも事実です。

まずは護衛艦と哨戒艦がそれぞれの務めを果たしつつ、当初の狙いを達成しなければなりません。