20年越しの大型巡視船
海上保安庁はソマリア海賊の対処など、遠方での長期任務を行うとき、十分な外洋能力のある巡視船が足りておらず、長らく「しきしま」のみという現状でした。
さらに、近年は尖閣諸島で中国に対応せねばならず、大型化する中国船を前にして、対抗できる巡視船が足りていません。
このような教訓を受けて、「しきしま」以外に2隻の大型巡視船をつくり、3隻体制を目指しました。
その結果、2013年には「あきつしま」が就役しており、1992年の「しきしま」以来の大型巡視船として、約20年ぶりの船体規模になりました。
- 基本性能:巡視船「あきつしま」
排水量 | 6,500t (基準) |
全 長 | 150m |
全 幅 | 17m |
乗 員 | 110名+航空要員30名? |
速 力 | 25ノット(時速46.3km) |
航続距離 | 最大2万浬 (37,000km) |
装 備 | 40mm機銃×2 20mmバルカン機銃×2 |
艦載機 | EC225ヘリコプター×2 |
価 格 | 約320億円 |
「あきつしま」は海保最大級の巡視船とはいえ、その実態は「しきしま」の発展型であって、準同型船として規模や設計を踏襲しました。
ただし、主武装は35mm連装機銃ではなく、40mmの単装機銃に変わり、射程は約12,500mと従来の倍以上になりました。そして、40mm弾の採用にともない、火力そのものは強化されました。
一方、副武装は20mm機銃を継承したものの、最新型を搭載しているほか、各所に12.7mm機銃用の銃座を設けました。違法漁船などを追い払う場合、高圧放水銃を使う形ですが、格納庫の左右にある「しきしま」とは違って、船首側の両脇に配置しています。
また、「あきつしま」は海保随一の航空運用能力を誇り、大型の「EC225ヘリ」を2機も搭載できます。
加えて、全天候型の救難艇と警備艇、高速の警備救難艇をそれぞれ2隻、計6隻も搭載できることから、海上救難・海上臨検への備えも万全です。ちなみに、「しきしま」は高速警備救難艇を搭載しておらず、この点では「あきつしま」が上回っています。
天皇陛下の御召艦にも
「しきしま」の改良型として建造後、横浜の海上保安部に配備されており、貴重な大型巡視船として重宝されてきました。
なお、2015年に天皇・皇后両陛下がパラオを訪れた際、「あきつしま」はその宿泊先に選ばれました。
訪問先のぺリリュー島は太平洋戦争の激戦地とはいえ、パラオ国際空港から距離があったため、「あきつしま」に白羽の矢が立ったわけです。
いわゆる「御召船」に選ばれた栄誉を受けて、船内は手すりやスロープでバリアフリー化を行い、船長室には大きめのベッドを運び込むなど、陛下の宿泊に向けて改装しました。
むろん、陛下が巡視船に泊まるのは前例がなく、いろんな重責がありながらも、名誉な出来事だったそうです。
そんな「あきつしま」はもう1隻の同型艦をつくり、「しきしま」とともに3隻体制になるはずでした。
ところが、尖閣周辺での中国船と対峙するなか、海保は12隻の専従艦隊を優先せねばならず、最終的には「あきつしま」のみで終わりました。
その後、尖閣領海警備専従体制が完成すると、今度は「れいめい型」巡視船の配備が始まり、大型巡視船の数は増えています。
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