前方展開でインド太平洋を担う
世界最強のアメリカ海軍のうち、とりわけ「無敵」と評されるのが第7艦隊です。
米海軍は欠番の第1艦隊を除き、計7つのナンバー艦隊(序列艦隊)を持ち、第2〜7艦隊はそれぞれのエリアを担当します(第10艦隊はサイバー戦部隊)。
たとえば、米東海岸に面する第2艦隊は大西洋地域、バーレーンを拠点とする第5艦隊は中東方面、という感じです。ただし、その艦隊戦力にはバラツキがあって、第4艦隊(南米地域)には戦闘艦艇がほとんど配備されていません。
こうしたナンバー艦隊のうち、横須賀の第7艦隊はインド洋から西太平洋を担い、それは地球の半分に相当する最も広いエリアです。それゆえ、配備戦力は平時でさえ艦艇50隻と航空機150機以上、兵員約2.7万人にのぼり、もはや中規模国家の軍隊に匹敵します。
- 基本情報:アメリカ第7艦隊
設 立 | 1943年3月15日 |
拠 点 | 横須賀(母港) 佐世保 グアム |
旗 艦 | 指揮揚陸艦「ブルーリッジ」 |
人 員 | 約27,000人 |
艦 船 | 原子力空母×1 イージス巡洋艦×4 イージス駆逐艦×8 強襲揚陸艦×1 揚陸艦×4 掃海艦×4 原子力潜水艦×3 |
航空機 | F/A-18戦闘機など150機以上 |
第7艦隊の歴史は1943年までさかのぼり、マッカーサー(陸軍)が指揮する艦隊として発足しました。太平洋戦争後も重要性が変わらず、台湾危機や朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などに参加してきました。
インド太平洋地域でプレゼンスを示しながら、有事ではすぐに駆けつけるべく、日本の横須賀や佐世保を前方拠点にしています。第二次世界大戦後で日本が敗れたあと、米海軍は港湾施設の整った横須賀・佐世保をそのまま使い、米本土から遠く離れた地に整備・補修拠点を確保しました。
もし横須賀や佐世保が使えなかったら、第7艦隊はハワイ(真珠湾)まで後退せざるをえず、急ぎでも約1〜2週間はかかってしまいます。
長距離遠征は「距離の暴虐」といわれるほど、戦力維持と補給線の確保が難しく、太平洋横断となればなおさらです。その点、日本にあらかじめ前方展開させておけば、アジアでの危機にすばやく初動対応ができます。
圧倒的打撃力の無敵艦隊
第7艦隊は「世界最強」とされるものの、実際にはいろんな部隊で構成されており、原子力空母や巡洋艦、駆逐艦は横須賀、強襲揚陸艦などの水陸両用部隊は佐世保、原子力潜水艦はグアムに分散配置されています。
さらに、特殊部隊と一部の海兵隊部隊を取り込み、水上戦闘、対地攻撃のみならず、上陸支援任務にまで対応してきました。
そのうち、やはり空母打撃群が中核戦力にあたり、「第5空母打撃群」は原子力空母を中心にしながら、第7艦隊の主力として活動してきました。
任務次第で編成が異なるとはいえ、空母打撃群は巨大な原子力空母に加えて、護衛の巡洋艦、駆逐艦からなる強力な水上部隊です。その実力は中規模国家と戦っても、普通に勝てるレベルと言われてきました。
主目的である敵艦隊の撃破はもちろん、F/A-18戦闘機で空爆したり、イージス艦からトマホーク巡航ミサイルを撃ち込み、相手国そのものを痛撃できます。まともな海軍力を持たない場合、その存在は恐怖の対象でしかありません。
一方、中国にも空母打撃群があるとはいえ、アメリカの方が70年以上の運用実績を誇り、経験値ではかないません。いろんな状況をふまえながら、戦力編成や運用方法を変える柔軟性を持ち、それが戦場で大きな優位性をもたらします。
アメリカの「力」を具現化する以上、空母打撃群の強さは原子力空母に限らず、随伴の護衛艦艇にもおよびます。
第5空母打撃群には8隻の駆逐艦がいますが、その全てが弾道ミサイルの迎撃能力(BMD)を与えられました。この数は海上自衛隊のBMD艦と変わらず、第7艦隊だけで海自全体に匹敵するともいえます。
さて、ここで注意したいのが、原子力空母が半恒久的な動力を誇るとはいえ、いつも稼働しているわけではなく、整備・補給と乗組員の休息が欠かせません。
それゆえ、時期によっては空母が戦力化されておらず、ほかの空母打撃群で穴埋めしながら、アジアにおける抑止力を維持してきました。
ひとつの空母打撃群は毎年1兆円の維持費がかかり、アメリカは計12個も保有しながら、常に2〜3個は展開できるようにしています。こんな芸当は他国には到底できず、まさに大国・アメリカの強さの根源です。
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