高機動な打撃力を持つ小部隊
中国による海洋進出と台湾侵攻の可能性を受けて、アメリカは新たに「遠征前進基地作戦(EABO)」と呼ばれる構想を採用しました。
これは中国のA2AD戦略に対抗するもので、対艦ミサイルなどを装備した地上部隊が敵勢力圏内にすばやく展開して、その外側にいる空母打撃群と連携しながら、敵を持続的に妨害する仕組みです。
そして、このEABO構想で前者を担うべく再編成されたのが、海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment)、通称「MLR」になります。
MLR部隊は3個連隊が予定されており、沖縄に駐留する海兵隊部隊も「第12海兵沿岸連隊」に再編されました。さらに、グアム島にも1個連隊を配備して、必要に応じてフィリピンへ展開する態勢を整えます。
これらは部隊規模こそ従来の50〜60%になるものの、空輸や新しい軽揚陸艦で高速展開・撤収するほか、高機動な対艦・対空ミサイルによって長射程の精密誘導火力を手に入れました。
特に無人対艦兵器「NMESIS」、そしてロシア=ウクライナ戦争で活躍したHIMARS高機動ロケット砲は、部隊の基幹打撃力として期待されており、各地のMLR部隊が互いに連携しながら、濃密な火力ネットワークを構築します。
すなわち、戦車や榴弾砲を廃止した代わりに、これら無人兵器や長距離ミサイルで島嶼戦に特化させたのがMLR部隊になります。
小さいながらも、強力なパンチを放つ部隊で「内側」から妨害・かく乱したり、点在する島々に拠点を作り、あとから進攻してくる米軍本隊を支援するわけです。
課題は兵站連絡線の確保
さて、MLR部隊をあえて中国の射程圏内に置けば、平時からその軍事行動を抑止できるとも期待されています。これはどこかを攻撃すれば、必然的に米軍も巻き込み、結果的に行動を控えるしかないからです(いわゆる「トリップワイヤー抑止論」)。
そして、もし抑止が失敗しても、MLR部隊は前述のような妨害戦術を遂行せねばなりません。ところが、敵の攻撃圏内で活動するリスクは高く、補給線や連絡線を断たれて孤立する可能性があります。
太平洋戦争をふり返れば、島々にいた日本軍の守備隊は孤立したあげく、各個撃破されたり、戦略上は無意味な遊兵になりました。
したがって、外側にいる主力部隊との連携を確保するのはもちろん、最終的な航空・海上優勢が欠かせません。
また、台湾有事を含むアジア太平洋での衝突は必然的に「日米同盟vs中国」になりやすく、EABO構想とそれを行うMLR部隊は普段から自衛隊との連携を図らねばなりません。
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