冷戦期には一時復活
航空機やミサイルの登場を受けて、戦艦は過去の遺物になったとはいえ、いまもロマンあふれる兵器として多くを惹きつけています。
かつては大艦巨砲主義の象徴、その国の海軍力を示す戦略兵器だったものの、いまは海から消えて久しい存在です。しかし、その使い道が完全になくなったわけではなく、1980年代には「アイオワ級(4隻)」が一時復活しています。
このとき、自慢の40.6cm主砲に加えて、16発のハープーン対艦ミサイルと32発のトマホーク対地巡航ミサイルが搭載されるなど、大規模な近代化改修を受けました。その結果、他の艦艇ではあり得ない攻撃力を持ちながら、戦艦特有の重装甲で防御力を両立しました。
アイオワ級戦艦(出典:アメリカ海軍)
こうして攻撃力を飛躍させたところ、1991年の湾岸戦争ではイラク軍の地上施設を艦砲射撃やミサイルで吹き飛ばすなど、その大火力を改めて発揮しました。
また、巨大な船体は「存在感」を放ち、味方に安心感を与えながら、敵を威圧する効果がありました。けん制や護衛任務において、小さな駆逐艦よりも心理的効果が期待できたわけです。
装甲・火力 vs. コスト
湾岸戦争で活躍したとはいえ、冷戦終結後の軍縮で再び退役となり、現在は4隻とも記念館として展示されています。うち2隻は海軍の予備艦隊に加わり、入念な再整備で現役復帰できるそうです。
では、戦艦が再び使われる可能性はあるのか?
ここで戦艦の長所・短所を改めて整理しましょう。
長 所 |
主砲の大火力 |
厚い装甲がもたらす防御力 |
船体規模を活かした装備の搭載 |
短 所 |
大きすぎて洋上機動と単独運用が難しい |
多くの乗組員が必要 |
高額な維持費が必要 |
主砲に使われている技術が途絶えている |
主砲の射程が短い |
以上の点をふまえると、航空優勢下での艦砲射撃には役立ち、現代艦船より防御力は高いものの、費用対効果は釣り合いません。
まず、現代艦船のペラペラ装甲に対して、「アイオワ級」は最大439mmの厚さを誇り、ミサイルや魚雷への耐久性は期待できます。その代わり、現代艦船より機動性が悪く、対潜・対空戦闘には不向きなため、護衛艦が同行せねばなりません。
一方、主砲は砲兵師団を超える火力を持ち、安い砲弾を広範囲に叩き込めることから、上陸作戦時などの火力支援では恐るべき兵器です。
ただし、主砲の射程圏内まで接近せねばならず、対地ミサイルやJDAM誘導爆弾を使えば、より遠くから正確に狙えます。
敵しかいないならばともかく、周辺に民間人もいる場合、さすがに主砲で吹き飛ばすわけにはいきません。太平洋戦争で行われたような艦砲射撃は、いまのご時世は国際法上、人道的に難しくなりました。
砲撃中のアイオワ級(出典:アメリカ海軍)
一方、現代艦船はロケット補助弾を使えば、主砲の長射程・精密誘導化が可能です。1発あたりの火力では劣っても、巻き添えのリスクは低く、使いやすいといえます。
アメリカも出番がないと確信したのか、40.6cm砲の弾薬と関連部品については、2016年に全て廃棄されました。
では、その大きな船体を活かして、大量のミサイルを載せるのはどうか?
発想自体は悪くないですが、わざわざ古い船を改造するよりも、新しく建造した方が合理的なうえ、意外とコストが安く済みます。
しかし、同じ船を造るならば、1,500名以上が必要な戦艦ではなく、約300名で動かせるイージス艦を選択するはずです。同じ人員・コストで5隻も運用できるほか、戦艦よりは使い勝手がいいわけですから。
戦艦にしかない長所はあるとはいえ、現在はその運用コストと期待効果が釣り合っておらず、残念ながら持つだけで無駄な兵器になりました。
そのため、レーダーを無効化する新兵器、たとえばガンダム世界の「ミノフスキー粒子」でも開発されない限り、あえて戦艦を復活させる理由は見当たりません。
無理やり復活させたとしても、その役割は艦砲射撃による火力支援、敵に対する示威行為、そして観艦式で威容を見せつけるぐらいでしょうか。
コメント