12隻の能力向上型
海上自衛隊では乗組員が足りず、中国海軍に対抗せねばならないなか、「もがみ型」フリゲートで自動化・省人化を図り、その量産をひとつの解決策としました。

「もがみ型」はクルー制を取り入れて、海自初のフリゲート(FFM)になりますが、本来は22隻を建造予定だったところ、最終的な建造数は12隻になりました。これは能力向上型を求めたからであって、「もがみ型」が失敗したわけではありません。
むしろ、初のFFMの運用にともない、いろんな教訓・知見を得たのは間違いなく、さっそく改良型に取りかかった形です。
この「新型FFM」を12隻つくり、「もがみ型×12隻」と合わせると、フリゲート戦力は計24隻になります。
- 基本性能:「新型FFM(艦名未定)」
排水量 | 4,880t(基準) |
全 長 | 142m |
全 幅 | 17m |
乗 員 | 90名(推測) |
速 力 | 30ノット以上 (時速55.6km) |
航続距離 | 不明 |
兵 装 | 5インチ速射砲×1 垂直発射装置(VLS)×1 SeaRAM防空システム×1 対艦ミサイル 魚雷発射管 デコイ発射装置 遠隔操作式機関銃 機雷敷設装置 水中無人機、水上無人機 |
建造費 | 1隻あたり約1,000億円 |
新型FFMは「もがみ型(改)」でありながら、基準排水量は約1,000トンも増えており、その船体規模は「たかなみ型」護衛艦を超えます。しかも、円高の影響で建造費はふくらみ、約1,000億円/隻という金額になりました。
主契約企業は三菱重工業とはいえ、実際はジャパン・マリン・ユナイテッドが担い、わずか5年間で12隻を量産します。
イメージ図ではひとまわり大きいものの、外見は「もがみ型」とほぼ変わらず、あえて違いを指摘するならば、多機能レーダーの位置が異なるぐらいです。
新型FFMのイメージ図(出典:防衛省)
主要装備は従来型をふまえつつも、多機能ソナーを追加したり、最初からVLSを搭載します(「もがみ型」では追設扱い)。具体的なVLSの数は不明ですが、排水量が1,000トンも増えた点を考えると、24〜32セルまで増強されるでしょう。
そして、VLSのミサイルはESSM対空ミサイル、アスロック対潜ミサイルが搭載されると思われます。本来の役割が違うとはいえ、「もがみ型」は汎用護衛艦より防空能力が低く、新型FFMではこの弱点克服に加えて、継戦能力を強化するようです。
さらに、機雷戦・電子戦能力も向上させるほか、将来的にはトマホーク巡航ミサイルの運用も視野に入れています。
乗員ベッドを半個室化(出典:防衛省)
また、乗組区画の快適性を高めるべく、ベッドはカプセルタイプに変わり、プライバシーの確保に努めました。自衛隊生活は個室と縁がなく、若者に避けられる理由のひとつでした。
特に海自は狭い艦内で過ごす以上、プライバシーと通信環境の欠如が否めず、半個室化という試みを通して、その不人気を改善したいわけです。最近はWi-Fiも整備するなど、生活環境の向上に取り組み、半個室化も改善努力の一環といえます。
もはや護衛艦と変わらない
新型FFMは大きさだけでなく、性能面でも汎用護衛艦と大差ないですが、ここには省人化を図りながらも、多機能・高性能を両立したい意図がうかがえます。
12隻という数は「主力」にあたり、さまざまな任務に用いるがゆえに、汎用護衛艦に近い能力を持っても、そこまで不思議ではありません。
本来のFFM構想に基づくと、汎用護衛艦を哨戒や沿岸防衛から解き放ち、その分だけ正面戦力を増やすのが狙いでした。しかし、54隻ある護衛艦のうち、FFMが24隻を占めるとなれば、もう事実上の主戦力として扱わねばなりません。
それゆえ、「汎用護衛艦+機雷戦能力+省人化」を詰め込み、重武装なフリゲートに仕上がるはずです。
ちなみに、オーストラリアは次期主力艦に日本製を選び、「もがみ型」をベースにした11隻のフリゲートを導入します。これは日豪準同盟の強化もさることながら、「もがみ型」の能力と量産性に対する評価が高く、そのシリーズの成功を裏付けました。
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