なぜロシアの軍事力・経済力は持ちこたえているのか?

破壊されたロシア戦車 外国関連
SERGEY BOBOK/AFP VIA GETTY IMAGES
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ソ連時代の莫大な遺産

ロシアによるウクライナ侵攻は予想に反して長期消耗戦となり、ロシア軍はすでに10万近い兵士と3,000両以上の戦車を失いました。他の装甲車や火砲、航空機も合わせれば、その損害は「特別軍事作戦」としては明らかに許容範囲を超えています。

一方、西側諸国との関係は完全に破綻しており、国際的孤立によって北朝鮮のご機嫌を伺うまでに落ちぶれました。もちろん、中国や中東・アフリカ諸国、中央アジアなどとの関係は決して悪くないものの、侵略行為を表立って支持してくれている国はほとんどありません。

それでもロシアが侵攻をやめる気配はなく、この戦争の終わりは見えません。

ここで疑問なのが「なぜここまで軍事的に、経済的に持ちこたえられているのか?」ということ。

まず、軍事面からみれば、十数年かけて近代化した陸軍力はほぼ失ったに等しく、少なくとも、開戦前の兵力に匹敵する死傷者を出しました。予備兵力と追加動員で「数」はそろえているものの、その練度はかつてのレベルには及ばず、せっかく育て上げた第一線級の戦力はすり潰したといえます。

いまだに戦車や装甲車を多く投入できているのは、ひとえにソ連時代の遺産が大きいからです。

たとえば、主力戦車のT-72シリーズだけをとっても、その累計生産数は3万両にものぼり、ほかの旧式戦車と合わせてロシア国内の倉庫にはいまだ4,000〜5,000両が眠っています。これは歩兵戦闘車のBMPシリーズも同じで、あと2,500〜3,000両は残っていると推測されています。

破壊されたロシア戦車の残骸破壊されたロシア軍の戦車・装甲車(出典:ウクライナ軍)

また、ロシアは軍需産業へのテコ入れを図り、戦車生産数を月産120両まで引き上げました。ただし、これは新規生産というよりは、倉庫から引っ張ってきた予備戦車を改修しているというのが実態です。

このように冷戦期に大量生産された兵器があるからこそ、ロシアはこれだけの損失を受けてもなお戦えるわけです。しかし、それはソ連時代の遺産を食いつぶしているだけであって、いまの生産力と損耗ペースを考えれば、いつまでも維持できるものではありません。

知られていない備蓄や他の旧式兵器も加えたとしても、持ちこたえられるのは長くて3年と推定されています。

仮に3年のうちになんとか勝利しても、ロシアの軍事力を支えた遺産は二度と戻らず、あるのは核兵器だけを頼りとする「大きな北朝鮮」という未来です。

砲弾生産量では有利

戦車や装甲車、火砲は遺産頼りのなか、自力生産でひときわ目立つのが砲弾です。

ロシア=ウクライナ戦争では激しい砲兵戦が行われており、1日に放たれる砲弾数は数千発、多いときは万単位になります。それは両軍死傷者の80%の原因とされるほどですが、こうした火力勝負では「数」が物を言います。

この点では、ロシア単独で年間300万発の砲弾を生産できるのに対して、西側諸国は合わせても120万発ほどです。

これにはいくつかの理由がありますが、まずロシアは旧ソ連時代から火砲重視の戦略を持ち、冷戦後も法律で生産設備を無理やり維持させました。このような姿勢は「需要と供給」という経済原理を無視したものでしたが、それが戦時の砲兵戦で功を奏したわけです。

たとえば、1994年の第一次チェチェン紛争での砲弾消費量は最大3万発/日でした。これは1991年の湾岸戦争におけるアメリカの総消費数6万発と比べると、やはり次元が違います。

射撃する火砲露宇戦争は火砲の重要性を再認識させた(出典:ウクライナ軍)

他方、西側諸国は精密誘導兵器に軸足を移すとともに、対テロ戦争が始まるとインテリジェンスや特殊部隊の役割が増大します。こうした非正規戦では大規模砲兵戦が起こらず、砲弾についてもエクスカリバー誘導砲弾のような「少数生産・高性能」を志向しました。

なによりも、アメリカとその同盟国は、米軍がもたらす航空優勢と手厚い航空支援を期待できます。

だからこそ、ロシアと比べてそこまで砲弾生産を重視してきませんでした。

さらに、冷戦後の軍縮機運を受けて、アメリカでは軍需産業の整理・統合が進み、高性能兵器の少数生産体制に移行しました。その結果、今回のような突発的な砲弾需要に対応できなくなり、火砲重視体制を維持してきたロシアとの差が出ました。

まさか再び第一次世界大戦さながらの砲兵戦になるとは思っていなかったのです。

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