山に穴を開ける装備
現代戦では航空攻撃が欠かせず、逆に地上部隊は空から狙われやすく、どうやって隠れたり、攻撃から逃れるかが課題でした。
通常は地下陣地を活用しますが、山にトンネルを掘るという手段もあります。外部と比べれば、トンネル内は航空攻撃を避けやすいうえ、保管場所や臨時拠点を設けるには最適です。
特に日本は国土の75%が山間部にあたり、その地形を駆使した防衛戦術が欠かせません。そのため、陸上自衛隊も有事でトンネルを掘るべく、最近まで「坑道掘削装置」という穴掘り機械を持っていました。
- 基本性能:坑道掘削装置
重 量 | 約30t |
全 長 | 14.9m |
全 幅 | 2.8m |
全 高 | 3.5m |
坑道掘削装置は特殊な装備とはいえ、実際は民生品のタイプと変わらず、三井三池製作所が作ったものでした。1991年から調達が始まり、戦闘工兵部隊にあたる陸自施設科が運用しましたが、その配備数はかなり少なく、レア装備だったといえます。
先端部に掘削用の回転ドリルを持ち、アームをに動かしながら、山肌や岩盤を掘る仕組みです。また、削り出した土砂や岩石を集めるべく、車体前面には「ちりとり」のような装置があり、そのまま後ろのベルトコンベアーに流して排出します。
実際に掘れるトンネルは高さ5m、幅6mにおよび、1時間で約30平米(18.5畳分)の空間を作れました。これはトラックなどの車両を持ち込み、物資や仮設指揮所を置ける広さです。
廃止理由は業務効率化?
陣地・拠点作りで活躍するとはいえ、坑道掘削装置は地対艦ミサイルの運用でも役立ちました。陸自には地対艦ミサイル連隊があって、これらは沿岸部に機動展開できるほか、探知されにくい内陸部からも攻撃可能です。
内陸部から撃つ場合、トンネル陣地に隠しながら、攻撃時のみ顔を出す方法になるため、坑道掘削装置の出番になります。日本は「対艦ミサイル王国」ですが、それに関連して坑道掘削も重視していた形です。
ところが、陸自の坑道掘削部隊(坑道中隊)は2024年3月に廃止になり、それにともなって坑道掘削装置も用済みになりました。その理由は航空攻撃と防御手段の変化だそうですが、トンネル陣地の重要性自体は変わりません。
坑道は隠蔽や偽装工作をすれば、偵察衛星でも正確には捉えられず、ドローンの目もごまかせます。
坑道を掘る様子(出典:陸上自衛隊)
ただ、すぐにドローンが飛んでくるなか、あまり悠長にトンネルを掘る時間はなく、もっと早い構築手段を目指したと思われます。おそらく掘削せずに、そのまま設置できるタイプを思案しており、ほとんど使い捨てながら、次々と陣地変換するイメージでしょう。
坑道掘削装置がなくなるのは惜しいですが、坑道掘削のノウハウを維持すべく、施設科内で調査・計画能力は引き継ぐようです。言いかえると、実務は民間委託に任せるつもりで、その分の余剰隊員を他部隊にふり向けるわけです。
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