同盟のジレンマとは
逆に見捨てられる恐れではなく、日米同盟があるがゆえに、アメリカの戦争に巻き込まれるリスクもあります。
しかし、こうしたリスクは日米同盟に限らず、全ての同盟に当てはまります。
国家間のやり取りといえども、それが人間関係の延長線にある以上、同盟には「見捨てられる」「巻き込まれる」という不安が付きものです。これを「同盟のジレンマ」と呼び、当事者は両方の感情に悩みながら、その関係維持や改善に努めます。
どちらかといえば、日本では巻き込まれる不安が大きく、平和憲法を盾に使いながら、アメリカの戦争を回避してきました。特にベトナム戦争や湾岸戦争、イラク戦争時において、日本側では「巻き込まれ論」が顕著に現れました。
ところが、北朝鮮による核開発、中国の軍事力強化が進むにつれて、今度は見捨てられる不安が強まり、いまは「見捨てられる論」の方が大きいといえます。
アメリカ側もジレンマと無縁ではなく、尖閣を巡る日中衝突が米中戦争につながり、アメリカが巻き込まれると恐れてきました。ひるがえって、台湾有事では日本が中立化を図るなど、日本の消極的態度や非協力が懸念されています(見捨てられる論の一種)。
このように時と場合によって、同盟のジレンマは変化するわけですが、日米同盟は70年以上にわたり、これら苦悩を乗り越えて今日にいたりました。ソ連崩壊後は同盟の目的を見失い、一時は漂流状態にあったものの、再びアジア太平洋の秩序維持と対中・対北朝鮮という存在意義を見つけました。
永遠の同盟などない
では、この先の日米同盟はどうなるのか?
日米両国には敵対する理由がなく、対中国などの戦略的利益が変わらない限り、一定の浮き沈みはあれども、太平洋同盟は存続するはずです。
ただ、最近は政権交代にともなう振れ幅が大きく、特にトランプ政権による同盟国への扱いを見れば、自由主義陣営を率いたアメリカの姿はもういません。
トランプ大統領は損得勘定で動き、分かりやすい「実利」にしか興味がなく、目に見えづらい国益には疎いです。お得意の取引(ディール)で利益を得るべく、国際関係を1対1の二国間関係でとらえながら、同盟ネットワークは軽視しがちです。NATOとウクライナに対する態度、ロシアへの過剰な肩入れなど、同盟国としての信用は損なわれました。
もはや政権次第ではあてにならず、日米同盟も「現在」はともかく、その将来は雲行きが怪しくなりました。
もちろん、日本とウクライナは立場も重要性も異なります。
対中国を優先するアメリカにとって、日本はウクライナより価値があるうえ、正式な安保条約を締結しています。それでも、トランプ政権に従来の常識が通用せず、平気で同盟をないがしろにする以上、安保条約を守る保障なんてありません。
少なくとも、歴代政権で最低の信用度しかなく、日米同盟に対する信頼性は低下しました。
「昔の政権が結んだ条約など知らない」「アメリカの脅威でなければ、中国が西太平洋を支配しても構わない」
あのトランプ大統領ならば、普通に言い出しかねません。
いまの状況下では同盟の不安定化は避けられず、アメリカの姿勢はトランプ政権に限らず、この先も続く可能性があります。それだけアメリカが疲れており、世界の安定に寄与する意欲が低くなりました。
いずれにせよ、戦後日本の「当たり前」は崩れ去り、変化を覚悟するときが近づいています。
下手すると、70年ぶりに国家の針路を決めねばならず、日本人は大きな決断を迫られるかもしれません。それだけアメリカ側のブレが激しく、日米同盟が続くと断言できない時代に入りました。
そもそも「永遠の同盟」などはなく、いずれは変化の時期が訪れますが、トランプ政権はその現実を投げかけるとともに、日本への問題提起となっています。

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