冷戦期への逆戻り
日本が自由主義陣営に属する限り、ウクライナ侵攻中のロシアとは対立関係になりますが、これは冷戦期に逆戻りしただけです。
長らくソ連が仮想敵国だったため、自衛隊は冷戦後も対ロシアを意識してきました。最近は南西シフトが進んでいるとはいえ、自衛隊は北方警戒を解いておらず、対ロシア戦も想定しています。
ただ、中国と北朝鮮という脅威を抱えるなか、ロシアと真正面から敵対する余裕はありません。
一方、ロシアもウクライナ侵攻という泥沼にハマり、北方領土の守備隊を引き抜き、対日戦用の海軍歩兵旅団が壊滅するなど、極東の陸軍戦力も潰してきました。
日本周辺に爆撃機を飛ばしたり、大規模な軍事演習を行うなど、威嚇は続けていますが、当面は対日侵攻の余力などありません。
太平洋艦隊と航空戦力が健在とはいえ、まともな上陸戦力が見当たらず、揚陸能力も1個連隊分ぐらいです。太平洋艦隊の揚陸艦は4隻しかなく、他の揚陸艦艇をかき集めても、北海道上陸なんて無謀すぎます。ウクライナで数隻の揚陸艦を失い、黒海方面が逼迫している以上、なおさら極東方面には回せません。
せいぜい中国と組みながら、日米同盟をけん制するのが関の山です。しかし、こうした動きが厄介なのは変わらず、台湾有事で日本を引きつけるべく、ロシアが挑発してくる可能性は考えられます。
中露離間という幻想
では、この中露連携に楔を打ち込むべく、日本はあえてロシアに接近すべきか?
日本では「対中国でロシアと連携すべき」という声がありますが、ロシアからすれば、中国と対峙するのは不利益しかなく、極東ロシアを中国に飲み込まれかねません。
このあたりは以前の記事をお読みいただければと思います。

北方領土交渉の危うさ
さて、日露関係といえば、冒頭で言及した北方領土抜きには語れません。これがあるせいで、日露両国は平和条約を結んでおらず、大きな影を落としてきました。
北方領土交渉において、日本は経済支援を見返りにしながら、四島の返還を期待してきましたが、根本的な部分で認識が食い違っています。
まず、日本にとって北方領土は「返還」されるべきものです。逆にロシア側の視点に立てば、戦争で獲得した領土であって、条件次第で「渡す(割譲)」対象です。
相手に返すのではなく、自分の土地を「あげる」わけですから、よほどのメリットがないと実現しません。極東ロシアの辺境地域のうち、北方四島は過疎化やインフラの遅れが目立ち、21世紀の生活水準からは遠いです。
それでも、経済支援だけで手放せる土地ではなく、そこには大きく2つの理由があります。
ひとつは北方領土がオホーツク海の入口にあたり、ロシア海軍が出入りできる海峡があるからです。
オホーツク海は原子力潜水艦を隠せるため、核の反撃能力を確保するうえで欠かせません。加えて、国後島や択捉島の周辺は冬でも凍らず、長らく不凍港を求めてきたロシアの重要海域です。
そんな場所にある北方四島を日本に渡せば、自衛隊や米軍の監視が厳しくなり、軍事戦略的には不利益しかありません。
この点は日本側も分かっており、米軍基地を置かないという約束案も出ました。ところが、こうしたアイデアは日米同盟にヒビを入れかねず、日米の離間を狙うロシアの思うツボです。
日米同盟とは日本に米軍基地を置き、その代わりアメリカに守ってもらうという関係です。
日本の土地にもかかわらず、アメリカが基地を置けないとなると、それは日米同盟における「例外」につながります。そうなると、今度は「尖閣諸島は日米同盟の適用外」という別の例外を生みかねません。
2つ目の理由として、ロシアの憲法で領土割譲が禁止されているからです。2020年の憲法改正によって、他国に領土を割譲できなくなり、ここには北方領土も含まれるでしょう。
理由次第では解釈で乗り切れるものの、よほどの旨味がないと国民は納得せず、実際は無理に近いといえます。たとえば、日本がアメリカとの軍事同盟を切って、最低でも中立化をしない限り、ロシアは北方領土を渡せません。
適切な距離感を保つ
アメリカに対する反発からか、日本ではロシアに変な幻想を抱き、日露関係の発展を主張する声も多いです。対米依存への反動が親露感情を生み、自主外交を望む気持ちに上手くマッチしました。
日本の独自路線といえば、イランとの友好関係が代表例にあたり、対露外交でも目指す動きがあります。
どちらもアメリカの仮想敵ですが、日本とイランは対立理由がなく、多少の独自路線を歩んだとしても、日米同盟に大きな影響は与えません。
対ロシアではそうはならず、現在の情勢下で単独接近したら、日米同盟は言うまでもなく、欧州との関係にも悪影響をおよぼします。対中国・対北朝鮮を考えると、自由主義陣営の支援は欠かせず、そのためにも対ロシアで足並みをそろえねばなりません。
いたずらに関係改善を進めても、自由主義陣営の結束を乱すだけに終わり、結果的に日本が損するだけです。まさに「労多くして、功少なし」です。
ロシアが敵性国家としてふるまう以上、真正面からは敵対せずとも、引き続き警戒しながら、適切な距離感は保つべきです。
コメント