「警察官」にはならない
さて、防衛用の安全圏の成立、資源の安定供給を求めるなか、中国とアメリカでは国家戦略が異なり、両者の行動に差を生んできました。
超大国のアメリカとは違って、中国は「世界の警察官」になる気はなく、大国の威信は欲しいとはいえ、大国としての責任は避けたい、というのが本音です。
経済力と軍事力は増強すれども、周辺地域以外には積極的に関わらず、覇権国までは目指していません。
覇権国は世界秩序を作る分、維持管理する責務が付きまとい、莫大な統治コストがかかります。
だからこそ、アメリカのように多数の同盟を結び、各地に介入するつもりはなく、覇権国ほどのやる気はありません。あくまで周辺地域に軸足を置き、海上交通などの死活的利益を守れたら、とりあえずは満足なのです。
アメリカは自由主義陣営の盟主として、その理念を普及・促進してきたほか、積極的に他地域の情勢に首を突っ込み、民主主義や人権の意識を定着させようとしました。
その裏には別の思惑があったにせよ、表向きは崇高な理念を掲げて、自らの教えを広げてきました。
一方、中国はアメリカの自由主義に対して、自らの成長モデル(開発独裁)を使い、別のオプションを提示できる立場です。されど、それを押し付ける気まではなく、他地域の問題に関わるにしても、アメリカほど積極的ではありません。
世界の警察官にはならない?
日本には歴史問題で干渉しますが、これは日本が隣国であるとともに、対日カードとして使えるからです。中国の人民はともかく、共産党自身はこだわっておらず、使える外交カードにすぎません。韓国は本気で歴史問題に取り組むも、中国は内心「どうでもいい」と思っています。
そもそも、中国は現実主義者の部分が強く、損得勘定と戦略的思考に基づき、したたかに動いてきました。もっとも、近年は個人独裁の弊害からか、かつてほど賢くはなく、「戦狼外交」をやりすぎたあげく、逆効果を生んでいますが。
それでも、アメリカのように世界中に手を出せば、それだけ統治コストがふくらみ、割に合わないと理解しています。
また、中国自身がそうであるからか、相手の政治体制や人権状況はどうでもよく、貿易と資源獲得で有益だと思えば、どんな国でも関係を築きます。
一応は警察官役のアメリカと違い、他国に対して内政干渉はせず、表の看板(理念)に制約されません。その分だけ取引先の選択肢が広がり、秩序維持の責任に悩まされないまま、貿易と資源獲得に専念できます。
華夷秩序に見るヒント
なお、伝統的な大国である以上、中国は「メンツ」に強くこだわり、他国からの尊敬を重視します。
伝統的な華夷秩序をふまえると、征服よりも敬意に軸を置き、その勢力圏は形式的な部分が強いです。周辺国の尊敬こそ求めるものの、欧米の植民地支配とは性質が異なり、近代まで国境の概念も薄いままでした。
中華商人の海外進出に比べて、歴史的に対外遠征の機運は低く、何度も帝国を築いたにもかかわらず、鄭和の大艦隊という例外を除けば、外洋海軍を建設していません。
歴代の中華帝国が外洋海軍に取り組み、もっと対外遠征に積極的であったならば、その脅威はすぐ隣の日本にも届き、元寇以外の侵略に直面したでしょう。この場合、日本も早い時期から海軍を持ち、日本史は変わっていたはずです。
でも、実際の中国は海外征服にこだわらず、日本も白村江の戦いや元寇を除くと、明治まで中華帝国を脅威とは感じず、国内向けの水軍で足りていました。
北方民族の対処、国内統治で忙殺されていたにせよ、中国は欧米列強と比べて征服にはこだわらず、華夷秩序による独自の服従で済ませてきました。
もっといえば、「戦わずして勝つ」の教えに従って、実力行使より「三戦(世論戦・心理戦・法律戦)」を好み、謀略や経済的な手段で浸透します。

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