復活する可能性は?日本で徴兵制がいらない理由について

自衛官の行進 自衛隊
この記事は約6分で読めます。

地理的環境を考える

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州各国は徴兵制の復活に向けて動き、北欧とバルト三国のみならず、ドイツやポーランドなどの主要国も検討中です。

日本でも安全保障環境の悪化、深刻な少子化と人手不足により、徴兵制を巡る意見が散見されます。

防衛力の強化が急務とはいえ、日本で徴兵制復活はあり得るのか?そもそも、必要なのか?

まず、必要性の観点で述べると、いまのところ必要ありません

四方を海に囲まれている以上、敵は海を越えて侵攻せねばならず、それはとてつもなく高いハードルです。相手の海上・航空部隊を突破して、侵攻部隊を上陸させるのは難しく、地続きの侵攻に比べて難易度はハネ上がります。

仮に上陸できたとしても、絶えず大量の補給物資を送り込み、侵攻部隊の継戦能力を支えねばなりません。それには圧倒的な海上輸送力が欠かせず、兵站上は悪夢でしかありません。

海を越えての侵攻、補給戦はそれほど難しく、そんな芸当をできる国といえば、現時点ではアメリカぐらいです。

それゆえ、日本で大規模な地上戦は起こりづらく、必然的に海・空域が主戦場になります。陸上戦闘とは違い、海・空の戦いは専門性が高く、短期間で一人前にはなれません。

むろん、地上戦も戦車や火砲など、一部は専門技能がいるとはいえ、海・空の職種に比べると、新兵の早期戦力化が見込めます。集団行動と小銃の射撃、最低限の陣地構築ができれば、一応は「歩兵」として役立ち、比較的育成しやすいわけです。

たとえ一人の歩兵であっても、地上戦では「戦力」になり、陸軍はそのように扱ってきました。

他方、軍艦と航空機の場合はそうはいかず、技能の習得に最低1〜2年はかかるほか、兵員は全体を動かす「部品」のひとつです。必須部品であるがゆえ、正確に機能せねばならず、高い専門性が求められます。

このような専門職に対して、大量の新人を送りつけても、とても短期間では育成できず、ようやく戦力化できたと思いきや、もう兵役が終わって除隊します。

徴兵期間を5年とかにすれば、また話は変わってきますが、社会に与える悪影響を考えると、貴重な若年層をそんなに拘束できません。

兵役は黄金の20代を国家に捧げながら、その間は一般社会に寄与できない制度です。徴兵分だけ働き手が減ってしまい、国家経済と社会システムに損失を与えます。

だからこそ、どこも約2〜3年と定めており、これが社会とのバランスを考慮した限界です。再び大陸進出に挑み、広い土地で地上戦をしない限り、徴兵制導入の必要性はなく、逆に社会の足かせになるでしょう。

ここで近隣諸国の例を見ると、同じ少子化の韓国は徴兵制を敷き、島国の台湾も兵役を復活させました。しかし、韓国は地続きで120万の敵と向かい合い、約70年も緊張状態を維持してきました。台湾も中国側が「統一」を明言している以上、その切迫感は日本とは比べ物になりません。

ちなみに、台湾海峡は最も狭い部分で約135kmです。その渡洋でさえ困難にもかかわらず、南西諸島と日本本土を狙うとなると、その難易度は段違いに上がります。

なお、北海道の宗谷海峡は幅40kmですが、いまのロシアに対日侵攻の余力はなく、もともとの揚陸能力も足りていません。

日米同盟があれば不要

さて、日本はアメリカと軍事同盟を結び、米軍の来援を前提にしながら、防衛計画を立ててきました。なんとか自衛隊が時間を稼ぎ、アメリカからの増援を待ち、最後は米軍とともに反撃する構想です。

ウクライナ・台湾とは違って、アメリカの直接介入を期待できるほか、その軍事的優位性をあてにできます。

すなわち、日米同盟さえ維持・機能していれば、あえて徴兵制を導入する必要はありません。下手に「数」をそろえるのではなく、自衛官の待遇改善に力を注ぎ、現有戦力の維持を優先すべきです。

逆に日米同盟がなくなった場合、安全保障の前提条件がひっくり返り、少なくとも兵役を「検討」する可能性はあります。今度は中国と同盟を結ばない限り、自衛隊を2倍以上の規模に増やす、予備兵力を確保しないといけないからです。

万が一、敵の本土侵攻を許してしまい、ウクライナのような持久戦になったら、米軍なしでは長くは持たず、国土奪還の見込みは立ちません。このような状況になると、ある程度は「数」で対抗する事態に陥り、ウクライナのように動員をかける、徴兵制を敷くことになるでしょう。

組織構成的には可能

ここで自衛隊の組織構成をみると、徴兵制を意識した痕跡があります。

自衛隊は幹部と中堅(曹)の比率が高く、それぞれ全体の20%、60%を占めています。逆にいわゆる「兵士」が異常に少なく、全体の20%以下しかいません。

通常は兵士クラスが1/3以上、多い国だと半数近いですが、自衛隊は中堅・幹部が大半を占めてきました。

一般企業で例えると、現場の平社員が2割以下にもかかわらず、管理職と係長・主任級が8割近くいる感じです。

自衛隊の「士」は契約社員、「曹」は正社員にあたり、どうしても後者に人が集まります。それでも、自衛隊が頭でっかちな組織なのは否めず、平時は「士」を少なめにしておき、中核部分(幹部・曹)を多めにそろえながら、短期間で一気に拡張できる構造です。

これは「クリュンパー・システム」と呼び、普段は中堅・中核層に軸を置き、有事で多くの新兵を急速動員する方法です。

ドイツが第一次世界大戦に敗れたあと、陸軍を10万人に制限されたため、このシステムを取り入れました。このとき、兵士には下士官(曹)並み、下士官には幹部相当の教育を行い、急速に拡張できるようにします。

1935年に再軍備を宣言すると、彼らを一斉に昇格させて、徴兵した大量の新人を鍛えます。その結果、わずか数年で大兵力を整えました。

憲法違反ではない?

ところで、徴兵制は憲法違反にならないのか?

抵触するとすれば、第13条と第18条ですが、その条文は以下のとおりです。

第13条:すべて国民は,個人として尊重される。 生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については, 公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする

第18条:何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。 また、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない

第13条で国民の権利の尊重、第18条で奴隷的拘束・苦役からの自由、と書いてありますが、解釈次第で徴兵制は可能と思われます。

第13条は「公共の福祉に反しない限り」とあるように、いろいろ解釈の余地を残しました。国防上は必要となれば、徴兵は公共の福祉にあてはまり、その法解釈は憲法9条と自衛隊の関係性よりも、ある意味で整合性がとれています。

一方、第18条は苦役の定義によるものの、国際条約では徴兵は苦役に該当しません。国際人権規約を読むと、兵役は強制労働(苦役)に含まれていません。

国際条約が苦役の対象外として扱い、日本国憲法も明確に禁じていない以上、法解釈の問題はクリアできるでしょう。

ただ、本当に徴兵制を導入するならば、新たな法律を制定せねばならず、政治的なハードルが高すぎます。国民と野党から大反発を食らい、反対運動の規模・勢いたるや、2015年の安保法制どころではありません。

たとえ法案を通せても、その政権は政治力を使い切り、与党は次の選挙で惨敗します。しかも、施行時に兵役逃れが起き、根強い反対と社会不安が残るため、運用上のデメリットも多いです。

したがって、憲法上の解釈は変更可能とはいえ、肝心の法案が可決・施行できず、政治的リスクが高すぎます。

静かなる有事?自衛隊の人手不足、待遇改善という課題
若手の「士」がいない 安全保障環境が厳しくなり、自衛隊の任務が多様化するなか、最も深刻な問題は「人手不足」です。2023年度をふり返ると、採用数は計画...

コメント

  1. np より:

    ブックマークしました。
    参考にさせていただきます。

  2. ぽわぽわ(❁´ω`❁) より:

    そもそも憲法を変えればよいだけ。現状ありきの議論はいかがなものか。

タイトルとURLをコピーしました