軽い、高機動、ネットワーク化
陸上自衛隊は陸上戦闘で欠かせない主力戦車を540両ほど保有していますが、そのなかで最新鋭のものが「10式戦車」になります。
戦後4代目の国産戦車で、三菱重工業が生産するこの戦車は、すでに120両近くが配備されていて、1両あたりの値段は約11億円です(90式戦車は約8億円)。
- 基本性能:10式戦車
重 量 | 44t |
全 長 | 9.42m |
全 幅 | 3.24m |
全 高 | 2.3m |
速 度 | 時速70km |
行動距離 | 約300km |
乗 員 | 3名 |
兵 装 | 120mm滑腔砲×1 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 |
価 格 | 1両あたり約11億円 |
まず、特筆すべきは車体に炭素繊維とセラミックスを使い、その重量が先代の90式戦車と比べて6トン、およそ12%も軽くなった点です。
これは90式戦車の反省点をふまえたもので、通行可能な橋梁数も全国の65%から84%まで改善されて、北海道以外でも使えやすくなりました。
通常ならば、車体の軽量化は防護力低下を招くところ、10式戦車は鋼鉄とセラミックスなどで組み合わせた複合装甲で両立しました。
この複合装甲は外付けによる増設もできるほか、耐久試験でも良好な結果を残しているため、10式戦車は他国の戦車よりも小さく、軽量でありながら防御力も十分とされています。
軽量化と防御力を両立させた国産10式戦車(出典:陸上自衛隊)
ちなみに、車体の小型化にともなって車載燃料は約20%減少したものの、燃費改善によって行動距離は従来とさほど変わりません。
また、10式戦車はネットワーク型の戦闘を行うべく、陸自戦車として初めて「C4Iシステム」を搭載しており、味方との連携をよりスムーズにしています。たとえば、それまでは無線でやり取りしていたところ、10式ではリアルタイムで情報共有しながら、複数の敵を分担・撃破する戦い方を目指しました。
そして、中枢となるコンピュータは熱に弱く、専用の冷却装置が欠かせないなか、その恩恵は乗員にも一部もたらされました。90式と同様に冷房がないにもかかわらず、10式戦車はこの冷却装置のおかげで、少しひんやりした空間になるそうです。
他国戦車に決して劣らない
一方、海外戦車と比べて「弱い」とされていますが、これは小型・軽量化がもたらす脆弱な印象と実戦経験のなさに起因するものです。
たしかに、評価試験での性能はあくまで参考数値にすぎず、実戦で通用するかはまた別問題でしょう。このあたりは実戦経験のあるアメリカやドイツ、ロシア戦車と比べて不利なのは仕方ありません。
しかし、演習を通して推測的評価は可能です。たとえば、アメリカで行われる共同演習では「C4Iシステム」を駆使した連携能力に加えて、米軍からはその機動力と射撃安定性を高く評価されました。
10式の高性能な安定装置を使えば、車体を傾けたり、激しく動き回っても、主砲の照準はあまりブレません。そして、目標を自動探知・識別する射撃管制装置のおかげで、その命中精度も大きく向上しました。
さらに、10式戦車は機動力、とりわけ加速性能と後進速度が抜群によく、停止状態からわずか2.5秒で時速30kmまで加速したり、前進時と同じ時速70kmでの全速後進ができます。
この俊敏さを射撃能力と組み合わせれば、高難易度の技も可能になり、演習では激しく蛇行しながら撃つ「スラローム射撃」を披露してきました。
すなわち、10式戦車は実戦経験がないとはいえ、これまでの国産開発で培ってきた技術を盛り込み、「攻・守・走・ソフトウェア」の各方面でバランスの取れた車両といえます。
それは西側の主力戦車と比べても劣っておらず、昔のイメージから「弱い」とされてきた日本戦車の地位をグローバル・スタンダードに確定させました。
ただし、自衛隊の戦車はあくまで国内使用が前提であって、運用環境の異なる他国とはそう簡単に比較できません。つまるところ、10式戦車は「地の利」を活かしながら国土防衛を果たすもので、日本国内で使う分にはその強みを発揮できます。
そろそろアップグレードを
10式戦車は最終的に約350両が調達されるなか、16式機動戦闘車の登場を受けて、その配備先は北海道・九州の陸自部隊に限定されました。
また、日本の最新戦車とはいえ、開発から早くも10年以上が経ち、新しい技術やロシア=ウクライナ戦争の教訓を反映した近代化改修の動きがみられます。
おそらく、装甲やネットワーク・システムの改良・更新、ウクライナで猛威をふるっている自爆ドローンへの対策が行われるでしょう。
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