国際親善・海軍外交も
さて、既述のように練習艦は主に幹部自衛官の実習及び実践の場として欠かせない存在ですが、同時に外交使節としての一面も持ちます。
遠洋航海となれば、世界各国への寄港も重要な任務のひとつで、事実上の海軍将校である海自の幹部自衛官はいわゆる「海の外交官」という立場も意識せねばなりません。
そのため、卒業したばかりの幹部自衛官は練習艦での航海を通じて必要な技能を実践するとともに、各寄港地における国際儀礼や交流を通じて日本を代表する武人としての自覚を醸成します。
若き卒業生といえども、相手国からすれば一国の代表かつ海軍の中枢を担う人材であり、通常の外交官と同等レベルの重みがあると言っても過言ではありません。
海を通じて世界中を旅する海軍将校は昔からその国の「顏」であり、否応がなく注目されるため、国際儀礼やマナーをわきまえた所作はもちろんのこと、いざという時の機転の良さが求められます。
その一例として、2000年のニューヨーク寄港時に練習艦「かしま」がイギリスの客船「クイーンエリザベス号」にぶつけられた時のエピソードがあります。
この時、謝罪に来た相手側に対して、「かしま」艦長は以下のように答えました。
「幸い損傷も軽く、別段気にしておりません。それより女王陛下(クイーン・エリザベス号のこと)にキスされて光栄に思っております。」
このセンスある返答は早速話題を呼び、日本の海軍軍人の評判を上げましたが、「海の外交官」にはこうしたウィットに富んだ機転の良さもいると言えます。こうした普段からの交流を通じて構築した関係は、いざという時に公式な外交チャンネルとは別で活きてきます。
したがって、若き幹部自衛官たちが乗り込む練習艦は、相手からすれば将来の良好な関係構築を目指すうえで歓迎すべき存在であり、日本としても戦闘艦である護衛艦を送るよりもハードルが低いといえます。
例えば、通常は議論や反発が呼びそうな場所でも、練習艦を派遣すれば表立っての批判はなかなか出来ません。こうした性質も含めて練習艦は「外交艦」として相応しいのです。
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