神出鬼没?HIMARS高機動ロケット砲の性能と活躍ぶり

アメリカ
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MLRSの小型・軽量版

長距離からロケット弾の雨を降らせる兵器といえば、陸上自衛隊も運用する多連装ロケット砲「MLRS」が有名ですが、湾岸戦争でも絶大な威力を発揮したMLRSは25トン以上の重量によって空輸性に制約があり、機動力に欠けるとされていました。

そこで登場したのがMLRSよりも小型かつ軽量で、空輸しやすい高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」になります。

  • 基本性能:M142 HIMARS高機動ロケット砲
全 長 7m
全 幅 2.4m
全 高 3.2m
重 量 13.7t
乗 員 3名
速 度 時速85km
行動距離 480km
主武装 227mmロケット弾×6
価 格 1両あたり約10億円

HIgh Mobility Artillery Rocket System(高機動ロケット砲システム)」を略したHIMARSは、機動力重視の多連装ロケット砲として1990年代に開発されました。

MLRSより重量が12トン以上も軽くなったことで、C-130輸送機のような中型輸送機でも空輸可能となり、装輪式(タイヤ式)への変更は舗装道路での長距離移動・機動展開を容易にしました。

一方、弾薬はMLRSと共通化して互換性を確保しており、車体後部にロケット弾を収めたコンテナをひとつ搭載する形です。

小型化にともなってコンテナ1個あたりのロケット弾は6発に半減したものの、備え付けのクレーンを使ってすばやく再装填できます。射撃位置が特定される前に離脱する「シュート・アンド・スクート戦術」が求められる現代砲兵戦では、装填数を多少犠牲にしてでも機動力を優先すべきなのです。

HIMARSはクラスター弾で広範囲を「面制圧」する兵器として登場しましたが、その後はクラスター弾禁止条約によって重要拠点を狙うピンポイント攻撃に切り替えました。ゆえに、いま使っているロケット弾はGPS誘導式で約70kmの射程距離を持つ「M30」「M31」になっています。

ほかにも、長距離打撃力として射程300kmを誇る地対地ミサイル「ATACMS」を1発装填できるうえ、開発中の次世代対地ミサイル「PrSM(射程500km超)」も2発搭載可能です。

ウクライナでの大活躍

米陸軍と海兵隊で運用されているHIMARSは、アフガニスタン戦争やイスラム国での対テロ戦で戦果をあげてきたものの、世界中から脚光を浴びたのはロシア=ウクライナ戦争での活躍ぶりでした。

砲兵戦力で劣るウクライナ側に20両以上が供与されたところ、捕捉されにくい利点を生かしながらロシア軍の後方拠点を叩いてきました。お得意の精密攻撃で地上司令部や兵舎、弾薬拠点などを吹き飛ばて、ロシア軍にかなりの損害を与えています。

高速道路ですばやく移動しつつ、道路脇から「ヒット・エンド・ラン」を繰り返すHIMARSに対してロシア側は有効な策を講じられず、確実に撃破できたのは2〜3両です。

ロケット弾を発射するHIMARS(出典:アメリカ軍)

ウクライナ軍の切り札として使われているHIMARSは、世界各国が改めて注目する兵器となり、軍備強化を目指すポーランドにいたっては、なんと500基近くも爆買いしました。

そして、アメリカもアジア太平洋においても空輸による緊急展開を通じて中国の動きを封じるつもりです。

アメリカは日本の南西諸島を含む「第1列島線」に長射程ミサイルを分散配置して中国軍を寄せ付けず、行動を制約する「逆A2AD(接近阻止、領域拒否)」を企図しています。

この構想では対艦攻撃用の無人兵器「NMESIS」とともに、HIMARSも持ち込まれる見通しです。

こうしたミサイルの分散配置は同時に全てが潰される事態を避け、生き残った部隊が他の島から遠距離攻撃できる態勢を目指すためのもので、HIMARSは射程300kmのATACMSなどを使って島嶼間における相互支援体制の一翼を担います。

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