中国海軍を狙う新兵器
アメリカ海兵隊は上陸作戦のプロという印象が強く、太平洋戦争でも日本軍と島嶼戦を繰り広げました。ところが、近年はイラク、アフガニスタンのような海からほど遠い戦場で戦い、もはや「第二の陸軍」と化していました。
その後、2021年8月のアフガニスタン撤退で対テロ戦争は終わり、海兵隊は再び島嶼戦を重視するようになりました。
中国軍の台湾侵攻に対応すべく、まずは太平洋の島々に戦力を置き、相互連携可能な防空網、対艦攻撃のネットワークを作ります。これは中国のA2AD戦略を逆手にとった戦略ですが、ここでは高い機動展開性と生存性が欠かせません。
したがって、米海兵隊は鈍重な戦車や榴弾砲ではなく、島嶼戦用の新しい兵器に移行しており、そのひとつが「NMESIS(ネメシス)」という地対艦ミサイル・システムです。
ネメシスは「Navy-Marine Expeditionary Ship Interdiction System(海軍・海兵隊遠征船舶阻止システム)」の略称ですが、その実態は地対艦ミサイルを無人車両に搭載した世界初の装備です。
ミサイル自体はノルウェー産の「Naval Strike Missile(海軍打撃ミサイル)」であり、アメリカ以外ではドイツやポーランドが導入しています。
「ハープーン・ミサイル」と同じ亜音速兵器にあたり、その射程は200kmほど、価格は約3億円です。突出した性能ではないものの、ステルス・ミサイルとしては堅実な部類に入り、安定した信頼性を持っています。
新戦略への機動性・空輸性
さて、ネメシスは「無人」というのがポイントですが、そのおかげで運転席がなくなり、従来の地対艦ミサイル・システムより小型・軽量になりました。
たとえば、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」は6輪の大型トラックを使い、計6発のミサイルを搭載しています。
一方、ネメシスは4輪車両に2発ですが、その代わり輸送機による機動展開を実現しました。C-130輸送機ならば2両も入り、CH-53などの大型輸送ヘリでも運べる機動兵器です。
この優れた空輸性こそ、太平洋で戦う際に海兵隊が重視している点です。
対中国の島嶼戦において、海兵隊は敵の攻撃圏内で戦うべく、ネメシスやHIMARSロケット砲を緊急展開させます。これは「EABO構想」に基づくもので、攻撃圏外にいる主力部隊(空母打撃群など)との連絡、各部隊の生存性が作戦の成否に直結します。
すなわち、ミサイル戦力を分散配置しながら、各個撃破されないように相互支援体制を築き、外側の味方と連携せねばなりません。そして、撃ってはすぐ逃げる「シュート・アンド・スクート戦術」が欠かせず、ネメシスのような機動性の高い兵器が必要です。
だからこそ、海兵隊は戦車部隊を廃止して、新たにネメシスのような兵器を導入しました。
まだ情報が少ないとはいえ、新しいビジョンに合った装備として配備が始まり、島嶼戦ではHIMARSとともに中国軍を狙い、その行動を縛る役割を担います。
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