ホワイトハウスを守る防空兵器
ホワイトハウスにはアメリカの大統領が住み、まさに世界の中枢ともいえますが、そんな超重要施設を守るのが、「NASAMS(ナサムス)」という防空システムです。
2001年の同時多発テロにおいて、貿易センタービルと国防総省が攻撃されるなか、じつはホワイトハウスも攻撃対象でした(飛行機は途中で墜落)。
その後、ホワイトハウスの防空を強化すべく、スティンガー・ミサイルを装備したアベンジャー・システムに加えて、ノルウェーとアメリカが共同開発したNASAMSが配備されました。
ここで注意したいのが、NASAMSとはミサイルの名称ではなく、あくまで防空システム全体を指すこと。
実際に発射されるのは、中距離空対空ミサイル「AIM-120 AMRAAM」の地上発射型であり、これを捜索レーダー、射撃管制装置と組み合わせたのがNASAMSです。
ちなみに、AMRAAMは西側諸国が標準装備として使い、日本もF-35戦闘機向けに導入しました。
NASAMの射撃(出典:ノルウェー軍)
ミサイルは自分のレーダーで捜索しながら飛ぶ、いわゆる「撃ちっ放し能力」に加えて、初期型で25km以上の射程を誇ります。
また、システム全体は車両での移動・展開ができるとともに、発射機のみを約20kmも離れて分散配置できたりします。そして、高度なネットワーク化を通して、ほかの防空兵器と連携しながら、重複攻撃や友軍誤射を避ける「チームプレイ」を実現しました。
レーダーの探知範囲は120kmとも言われており、アメリカでは中距離防空の要としてホワイトハウスだけではなく、連邦議事堂や主要官公庁などの首都中枢部をカバーしています。
ホワイトハウスにはスティンガー・ミサイルもあるとはいえ、こちらは短距離防空用であって、実際のところはNASAMSが防空のメインを担う形です。
改良型は機動性・射程アップ
NASAM自体は1998年に登場したあと、2000年代後半には早くも「NASAMS 2」という改良型が作られました。レーダーの性能を高めたのみならず、NATOの標準通信システムである「リンク16」に対応しました。
情報共有能力を強化したところ、連携戦術がとりやすくなりましたが、その後は機動展開力を高めるべく、「NASAMS 3」2019年に開発されました。
これは発射装置をハンヴィーに載せたもので、C-130輸送機によって空輸できるほか、悪路に強い長所を活かせば、以前は入れなかった場所にも展開できます。
射撃管制装置もデイスプレイ型になり、操作性がよくなりましたが、おかげで短時間でミサイルを放ち、発見される前に逃げやすくなりました。
一方、使用するミサイルも新しい「AMRAAM-ER」に変わり、その射程距離は50km以上、飛翔高度は21kmから35kmに伸びました。
また、主に巡航ミサイル・ドローンを狙うべく、より短射程の「AIM-9X サイドワインダー」も発射できるようなりました。ただし、短射程といっても、AIM-9Xは40km近い射程を持ち、中距離防空には何の問題もありません。
では、ここまで優れた兵器の値段はどれほどか。
システム全体で約30億円、発射するミサイルは1発あたり約1.5億円とされています。
防空兵器としての信頼性が高く、1機100億円の戦闘機を撃墜する点を考えれば、納得できる金額ではないでしょうか。
つまるところ、スティンガー・ミサイルより射程が長く、ペトリオット・ミサイルよりは安く、総合性能と費用対効果のバランスが取れた防空兵器といえます。
こうした魅力があってか、フィンランドやスペイン、オーストラリアが導入しており、今後はハンガリー、カタール、台湾も購入予定です。
そして、ウクライナにも供与されたところ、その迎撃能力が劇的に上がり、多くの巡航ミサイルを撃墜するなど、都市部を空爆から守りました。
すでに10セット以上が提供されたなか、パトリオット・シリーズやドイツのIRIS-T防空システムとともに、ウクライナの守護神となっています。
コメント