消耗前提の無人「僚機」
アメリカでは無人攻撃機の開発が進み、2000年代には「MQ-1(プレデター)」を実戦投入するなど、同分野では最先端を歩んできました。
無人機は人的損耗の恐れがなく、安上がりという利点があるものの、任務に対応する柔軟性、作戦能力で比較すると、まだ有人機にはおよびません。
こうしたなか、米空軍は有人戦闘機の支援だけではなく、その護衛も務めるステルス無人戦闘機を開発しました。
「XQ-58ヴァルキリー」の名前を持ち、従来より次元を引き上げた形ですがどのような能力、役割を与えられたのか?
- 基本性能:XQ-58ヴァルキリー
重 量 | 1.13t |
全 長 | 9.14m |
全 幅 | 8.22m |
速 度 | 巡航速度:時速882km 最高速度:時速1,050km |
航続距離 | 約5,000km |
高 度 | 約14,000m |
兵 装 | 小型無人機など最大800kg |
価 格 | 1機あたり6〜12億円 |
「XQ-58」は2019年に初飛行した無人機ですが、F-35戦闘機などの運用コスト、損失リスクを抑えるべく、安い「僚機」として開発されました。
有人機の代わりとして、ある程度の消耗を前提しており、AIによる自律飛行で長距離を飛び、F-35やF-22戦闘機に同行しながら、その作戦を直接支援する形です。
基本的には有人機(親機)が制御を行い、偵察から警戒監視、攻撃に対する防御までこなすため、いわゆる「ウィングマン」の役割を果たします。敵のミサイルを迎撃したり、状況次第では身代わりになりながら、親機の被撃墜リスクを軽減するわけです。
内蔵式のウェポン・ベイを持ち、250kgのJDAM誘導爆弾を搭載できるほか、今後は空対空ミサイルの試験運用も実施します。また、無人機であるにもかかわらず、「Altius-600」という小型無人機を放ち、自らの作戦を支援できるようにしました。
いまのところ、約3時間の自律飛行に成功したとはいえ、ウィングマンには随伴能力と機動性が欠かせず、この点では発展途上の段階です。
小型無人機を射出(出典:アメリカ空軍)
世界に目を向けると、各国は次世代のステルス戦闘機に取り組み、僚機とリアルタイムで連携しながら、「ネットワーク型」の戦闘を目指してきました。
「XQ-58」も無人僚機である以上、こうしたチームプレイの一翼を担い、データリンク機能の暗号化、妨害電波に対する耐性強化のほか、たとえ通信が途切れたとしても、基地まで自力帰還する能力を確保しました。
この技術進歩は極めて大きく、今後もAIアルゴリズムで機械学習を繰り返して、さらに飛行能力を高める予定です。しかも、このAIプログラムを応用すれば、他の無人機は言うまでもなく、将来開発される機体にも適用できます。
2005年の映画「ステルス」において、完全自律型の無人戦闘機「エディ」が登場しますが、「XQ-58」はかなり近づいたといえるでしょう。
対中国で大量調達?
有人機と本格的なコンビを組み、連携して戦う未来を目指すなか、本格量産は始まっておらず、わずか20機しか生産されていません。その結果、現在は1機あたり最大12億円にのぼり、現時点では安い無人機とはいえません。
製造元のクラスト社に言わせると、500機/年を生産できるそうですが、年間100機の量産体制を実現すれば、その価格は2〜3億円まで下がります。
ランチャーからの発射(出典:アメリカ空軍)
では、今後はどれぐらい調達するのか?
まず、自律型の無人戦闘機に限ると、米空軍だけで最低1,000機、最大2,000機は導入するつもりです。ただ、これが「XQ-58」とは明言してておらず、あくまで無人戦闘機「全般」の話にすぎません。
しかし、量産コストが下がり、消耗する前提で大量投入すれば、本命の打撃力(有人戦闘機と爆撃機)を守り抜き、無人機だけでも敵を圧迫できます。
「XQ-58」は長距離の自律飛行能力を誇り、コンテナ式の発射機から運用できるため、滑走路の少ない太平洋では役立ち、対中国では有効な兵器になれるでしょう。
台湾有事の可能性をふまえて、アメリカでは無人対艦兵器「NMESIS」、長射程の対艦ミサイルの配備が進み、さまざまな戦術兵器を考案・開発中です。
中国軍の防空網を突破するべく、いろんな新型兵器を試しているわけですが、無人戦闘機も切り札のひとつとして、大きな期待を寄せられています。
ここで歴史をふりかえると、中国は「A2AD戦略」で対米抑止を目指すうちに、安い兵器を大量投入しながら、相手に費用対効果の悪い対処を強いる、という構想に行き着きました。
ところが、アメリカが自律型の無人機を大量投入すれば、今度は中国側が費用対効果の問題に悩み、その優位性は傾くかもしれません。

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