近SAM・短SAMの違い
陸上自衛隊は世界的にみても防空兵器が充実しており、近距離から中距離における多層防空網を実現しました。
そのひとつが近距離用の「93式地対空誘導弾」というミサイルで、高機動車に載せながら神出鬼没的に展開することから、敵機にとっては厄介な相手です。
⚪︎基本性能:93式近距離地対空誘導弾
重 量 | 11.5kg |
全 長 | 1.43m |
直 径 | 8cm |
速 度 | マッハ1.7(秒速651m) |
射 程 | 約5km |
高 度 | 約3,500m |
価 格 | 1セットあたり約7億円 |
「93近SAM」と呼ばれるこの防空兵器は、それまで使っていた35mm対空機関砲の後継として開発され、師団や旅団の最終防空を担います。
ところで、こうした「近SAM」と陸自が同じく使う「81式短距離地対空誘導弾」のような「短SAM」は一体何が違うのでしょうか?
簡潔にいえば、「近SAM」は携行式の地対空ミサイルを車載化したもの。
対する「短SAM」はミサイルそのものが少し大きく、その分だけ射程が長いのが特徴です。よって、通常は「中SAM→短SAM→近SAM+携行式SAM」という順番で使われます。
93式近SAMもミサイル本体には「91式携帯地対空誘導弾(ハンドアロー)」を流用しており、開発期間とコストの縮減につながりました。
目視照準だが、期待はできる
93式近SAMは高機動車の荷台に4連装発射機×2、画像カメラ、赤外線センサーなどを搭載したシステムであり、操作は3名で行います。
まずは、現場指揮をとる班長が発射機とも連動したヘルメット取付型の照準器で対空目標を目視確認します。その後はレーザーでロックオン、射撃手がジョイスティックを使ってミサイルを放ち、画像と赤外線誘導で命中する仕組みです。
欠点としてはひとつの高機動車に詰め込んだところ、対空レーダーを搭載できず、あくまで目視照準式になったことです。
とはいえ、所属師団の情報システムと連携できるのみならず、全周360度の射界と複数目標への対処能力も獲得しました。しかも、ハンドアローの技術を流用したミサイルは高い命中率と撃ちっぱなし能力を期待できます。
ロシア=ウクライナ戦争で防空兵器の重要性が再確認されたなか、高機動車で運用する93式近SAMは偽装して待機すれば、戦闘攻撃ヘリなどにとっては大きな脅威となります。
そんな93式近SAMはハンドアローとともに現場の最終防空を務めるわけですが、計113セットが各師団や旅団の高射特科部隊に配備されました。調達はすでに終了したため、今後は小型・低空目標への対処能力を高めた「新近距離地対空誘導弾」が開発されます。
これは航空自衛隊の基地防空隊が使う予定の「基地防空用地対空誘導弾(改)」と同等のもので、発見から射撃までの操作手順を自動化したり、空輸性を向上させる見込みです。
直近の戦争でも、巡航ミサイルと自爆ドローンによる同時多数攻撃が問題となり、新しい近SAMもこうした小型目標に対する同時対処能力を高める狙いがあります。
2026年には開発が完了するものの、新型近SAMも一挙には調達できないので、しばらくは師団・旅団の最終防空兵器として93式近SAMも現役を続けるでしょう。
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