根深かった対日警戒感
日本は同盟国・アメリカ以外にも、イギリスやオーストラリアとの準同盟化が進み、とりわけ後者との相思相愛ぶりは顕著です。
日豪両国は同じ「東経135度の友人」であって、近年は蜜月関係を築いていますが、戦後しばらくは真逆の関係でした。
オーストラリア視点で太平洋戦争を見ると、北部の都市・ダーウィンが空襲されたり、対岸のインドネシアまで日本軍が迫るなど、まさに本土手前まで敵が攻めてきた感じです。
このときの恐怖は戦後も解けず、オーストラリア側の白豪主義(白人優遇政策)も加わり、日本が再び軍国主義化すると本気で思っていました。
当初は共産化した日本が中国と手を結び、アジア全域を共産圏にすると恐れていました。その後、日本が急激に経済成長を遂げると、その経済力を背景に軍事大国化すると懸念しました。
このように対日警戒感が根強く残り、日豪関係は蜜月ではなかったものの、2010年代に中国の軍事大国化が明らかになると、今度は日本との準同盟へと方針転換します。
ダーウィンでの慰霊行事(出典:首相官邸)
現在のオーストラリアが懸念すべき相手とは、すぐ対岸のインドネシア(人口2.8億の潜在能力)とともに、南シナ海に進出した中国になります。
日本も大きな経済力・軍事力があるとはいえ、いまのオーストラリアからすれば、対中国で頼れる数少ないパートナーであるほか、同じ自由主義・民主主義陣営の仲間です。
これは戦後日本が築いてきた信頼、平和路線の歩みが実を結び、オーストラリアの恐怖感を溶かした結果でもあります。
こうした情勢のなか、故・安倍首相が「安全保障のダイヤモンド構想」、「自由で開かれたインド太平洋」を唱えたところ、オーストラリア側の国家戦略と一致しました。
共通の利害で未来を向き、安倍首相による豪州議会での演説、ダーウィンの慰霊碑訪問を受けて、日豪の「戦後」は完全に終わりました。
対中国に向けた日豪新時代
すでに日豪両国は物品・役務相互提供協定(ACSA)、情報保護協定(ISA)、防衛装備品・技術移転協定、共同訓練時の手続きを簡略化する円滑化協定まで結び、集団的自衛権の行使でさえ事実上適用されます。
両国の共同訓練が当たり前になっているなか、空自の戦闘機部隊をオーストラリアに一時展開させたり、情報共有体制も構築するつもりです。
もっとも、日本がオーストラリアに期待すべきは、有事における後方支援や警戒監視になります。オーストラリアとともに戦うのではなく、シーレーンの一部を守ってもらい、エリアとしては南シナ海方面を任せる形です。
共同訓練中の日豪空軍(出典:航空自衛隊)
では、どこまで安保協力は進むのか?
日米同盟のような正式な安保条約までは難しいでしょう。これは日本国内の反発に加えて、集団的自衛権をフルスペックで行使できないから。
同盟を正式に組む場合、お互いの議会承認が必要になり、政治的ハードルは一気に上がります。それならば、いまの準同盟手法を用いながら、さりげなく協力を進めるのが現実的でしょう。
その行き着く先は「準同盟以上、正式な同盟未満」とはいえ、実態としては事実上の同盟国になります。
ちなみに、オーストラリアは米英と「AUKUS」同盟を結び、そこに日本を加える構想もあります。まずは技術分野での協力が進み、本格的な参加は未定ながらも、向こう側はかなり前向きです。
同じアメリカの同盟国、イギリスとも準同盟関係にあるゆえ、日本がAUKUSに入るのは確かに自然な流れです。アメリカとイギリスは反対どころか、後押しする可能性が高く、米英豪にとっては利益しかありません。
AUKUS参加は日本の国益にも適い、現在の日米・日英・日豪関係を制度化する良い機会です。ただ、憲法9条と集団的自衛権を巡って、議論が再燃するのは間違いなく、そこまでの準備はできていません。
日本政府としては世論を下手に突かず、なるべく静かに準同盟化を進めたく、安保法制時のような「盛り上がり」は避けたいはずです。
こうした国内事情があれども、第二次トランプ政権の発足にともない、アメリカ主導の国際秩序は揺らいでおり、その分だけ日豪の関係強化が急務となりました。
AUKUS入りはともかく、日英豪の関係は次の段階に進み、日豪の準同盟も協力レベルを格上せねばなりません。
しかし、両国がどのような将来像を目指すのか、明確なビジョンが示されておらず、とりあえず運用面で協力を進めてきました。もはやアメリカを頼れず、日豪の準同盟が「必須」になるなか、その将来的な展望を両国で共有すべきです。

コメント