対中国の中距離ミサイル
太平洋で中国と対峙するうえで、アメリカはひとつの弱点を抱えていました。それがかつてソ連との間に結んだ中距離核戦力全廃条約(INF)でした。
このINF条約により、アメリカとロシアは射程500〜1,500kmの中距離ミサイルを持てず、条約に入っていない中国は保有できました。つまり、アメリカは500〜1,500km間の精密打撃力を欠き、西太平洋では中国軍に対して不利だったのです。
ところが、このINF条約は2019年に終わり、その制約から解き放たれたアメリカは中距離ミサイルをいくつか開発しました。そのひとつが「LRHWダーク・イーグル」という極超音速ミサイルになります。
- 基本性能:LRHWダーク・イーグル
重 量 | 約7,400kg |
全 長 | 不明 |
直 径 | 0.88m |
速 度 | マッハ5以上 |
射 程 | 3,000k以上 |
価 格 | 約50億円 |
LRHWは「Long-Range Hypersonic Weapon(長距離極超音速兵器)」の略称であるのの、その実態は3,000km近い射程を持つ中距離弾道ミサイルです。
大型トレーラーに載せた発射筒(キャニスター)から撃ち、二段式ロケットで大気圏の上層部まで飛んだあと、弾頭部分の滑空体を切り離します。
この滑空体は大気圏ギリギリを飛行することで、相手の防空システムから探知されず、最大マッハ5(時速6,000km以上)で突入する仕組みです。しかも、突入時の機動性も確保されており、敵の最終迎撃をかわせるとされています。
LRHWの発射機(出典:アメリカ陸軍)
一方、極高速の代償として燃費は悪く、ほかのミサイルと比べて重量が増えたり、単価が高いというデメリットをもたらしました。
したがって、LRHWはここぞという時に使い、巡航ミサイルやPrSMのような新型誘導兵器と組み合わせながら、あくまで数ある打撃戦力の一部として投入します。
日本にも配備されるか
LRHWはアメリカ本国での発射試験が進み、システムの不具合などが見つかったものの、数年以内には量産体制に入る見込みです。
そして、主に対中国で作られたことから、その展開地域は太平洋方面になります。
ヨーロッパにも配備予定とはいえ、メインが東アジアなのは変わらず、日本も本命候補地のひとつでしょう。
その場合、射程的に最前線付近の沖縄ではなく、より安全な後方に置くはずです。
自衛隊の「島嶼防衛用高速滑空弾」がLRHWと似た射程を持ち、北海道にも配備される点をふまえると、アメリカも同様の動きをするかもしれません。ただし、北海道に米軍基地はなく、ほかに置けそうな陸軍基地は座間(神奈川)ぐらいです。
また、その配備を巡っては議論や反対運動が起きるでしょうが、昨今の安全保障情勢を考えれば、それはかつてほどは盛り上がらないでしょう。もはや、日本が独自の長距離対地ミサイルを持つ時代になり、中国の軍拡やロシアのウクライナ侵攻を受けて、国民もさらに現実的になりました。
いずれにせよ、LRHWダーク・イーグルはアメリカの新兵器ながらも、日本にも大きく関係するものです。
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