F-16を改造したテスト機
軍事分野で最先端を行くアメリカは、もちろん無人機開発でも優位性を持ち、それは「XQ-58ヴァルキリー」のような機体につながりました。
一方、何事もゼロベースから作るのはリスクが高く、既存の機体を改良する手法も好まれます。
そのひとつが米空軍の「X-62A VISTA」であり、ロッキード・マーチン社とともにAIによる自律飛行を実現しました。
- 基本性能:X-62A VISTA
全 長 | 14.8m |
全 幅 | 9.8m |
全 高 | 4.8m |
乗 員 | 2名(無人飛行可能) |
速 度 | 時速2,170 km |
高 度 | 約15,000 m |
航続距離 | 最大5,200km |
X-62AはF-16戦闘機を改造したものですが、もともとは「NF-16D」と呼ばれており、テスト・パイロット向けの実験機でした。
実験機としてあらゆる状況を試すべく、通常よりも優れた機動性・制御力を持ち、F-16をベースにしながらも、もはや似て非なるものになりました。
特にエンジン・ノズルなどを改造したところ、普通ならば失速したり、姿勢を変えられない状況下でも、その機体を十分に制御可能となり、「超機動」とも言うべき長所を手に入れました。
加えて、特殊なソフトウェア・プログラムにより、他の航空機の特性や飛行性能もマネできるため、テスト機として使うには申し分ありません。
AIソフトで模擬空中戦も
その後、この実験機に「Variable In-flight Simulation Test Aircraft(可変的飛行シミュレーションの試験機)」というソフトウェアを組み込み、AIが機械学習を繰り返しながら、自律飛行できるようになりました。
一応、パイロットが乗り込むとはいえ、2023年には17時間以上のAI操縦に成功しています。
X-62A VISTA(出典:アメリカ空軍)
ここまでならば、他の無人機とあまり変わらず、そこまで驚きがないかもしれません。
しかし、続いてX-62Aは無人飛行しながら、有人機とのドッグファイト(目視できる範囲内での格闘戦)を実施しました。これはAI飛行機と有人機の初対決であって、X無人機側はAIアルゴリズムを使いながら自律飛行しつつ、まずは防御的なアプローチをとったそうです。
そして、タイミングを見計らって攻撃態勢に移り、時速1,900kmで加速しながら600mの距離まで詰めたとのこと。勝敗は明らかになっていないものの、実験は「成功」したと発表されています。
これはF-16戦闘機との模擬空中戦でしたが、相手が人間である以上、その出方やシナリオはいくつも考えられます。ただ単に飛行するのは異なり、複雑な処理・判断能力が求められるため、その難易度は一気に高くなるわけです。
開発側も試験飛行の度にソフトウェアを修正しており、この地道な努力が「空想」と思われていた無人機による空中戦に大きく近づきました。
今回のデータを用いてAI学習を繰り返せば、将来的にはより安全で信頼できる無人技術につながり、それは軍事分野にはとどまりません。
また、アメリカが1,000機以上のAI無人機を目指すなか、X62Aのような機体は有人戦闘機を支える僚機のポジションになるでしょう。
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