重武装、高い輸送能力
イタリア海軍といえば、第二次世界大戦でイギリスに苦戦した印象が強く、あまり日本人にも馴染みがありません。
しかし、現代のイタリア海軍は欧州有数の戦力を誇り、空母「カヴール」を中心としながら、NATO地中海艦隊の一翼を担っています。
不安定な北アフリカ・中東に近い関係から、イタリアは強襲揚陸艦も運用しており、その最新鋭艦が「トリエステ」です。これはヘリコプター揚陸艦「ガリバルディ」の後継にあたり、戦後最大のイタリア艦艇として2024年12月に就役しました。
- 基本性能:強襲揚陸艦「トリエステ」
満載排水量 | 36,770t |
全 長 | 245m |
全 幅 | 36m |
乗 員 | 460名+兵員600名 |
速 力 | 25ノット(時速46km) |
航続距離 | 13,000km |
艦載機 | 各種ヘリ:15〜20機 F-35B:15機前後 |
揚陸艇 | 機動揚陸艇×4 小型揚陸艇×4 |
兵 装 | 76mm速射砲×3 25mm機関砲×3 垂直発射装置×16 |
建造費 | 約1,800億円 |
トリエステの見た目は空母に近く、その艦橋は通常用と航空管制用の2つに分かれています。これはイギリスの「クイーン・エリザベス級」と同じですが、艦内系統や運用面で合理的というのが理由です。
さて、強襲揚陸艦である以上、ヘリ向けの広い飛行甲板と格納庫を持ち、甲板への駐機も合わせれば、15〜20機の輸送ヘリを搭載できます。
一方、ウェルドックには上陸用舟艇やAAV-7水陸両用車が入り、アリエテ戦車などの車両用スペースも設けられました。最大4隻の機動揚陸艇に加えて、同じく4隻の小型揚陸艇も搭載できるため、一度に大隊規模の戦力を運べます。
約600人の海兵隊を収容すべく、船内は居住区が設けられていますが、乗せるだけならば、最大1,000名まで対応可能です。
そして、トリエステは強襲揚陸艦にして珍しく、かなり重武装に仕上がりました。
特に個艦防空能力に重視したところ、25mm機関砲と対空ミサイルに加えて、3つの76mm速射砲を備えました。対空ミサイルは垂直発射装置から放ち、アスター・シリーズならば16発、イギリス製のCAMMは32発も装備可能です。
作戦行動では護衛がつくとはいえ、単独でもそれなりの防空能力を持ち、政情不安定な北アフリカ・中東沿岸部をにらみ、武装勢力などの攻撃を想定しているのがうかがえます。
F-35Bも使える多目的艦
海上作戦の中核を担うべく、トリエステは司令部機能も充実しており、ベッド28床を含む医療能力も確保しています。多目的という近年のトレンドに乗っかり、ひとつの船でいろんな役目を果たせるようにしたわけです。
これは航空運用面でも同じく、トリエステはF-35B戦闘機を運用できる軽空母にもなります。軽空母として使うならば、その編成はヘリと合わせて最大30機ほどですが、おそらく「F-35B×15、各種ヘリ×15」という具合になるでしょう。
また、飛行甲板には9つの発着スポットがあって、艦首には戦闘機向けのスキージャンプ台が設置されています。その結果、トリエステは強襲揚陸艦でありながら、強力な航空打撃力を手に入れました。
空母カブールと合わせれば、イタリア海軍は最大2つの戦闘航空団を操り、地中海は言うまでなく、世界でも珍しい体制になりました。
海上自衛隊が「いずも型」を軽空母化したり、多目的揚陸艦の構想を抱くなか、イタリア海軍の動向は参考になるでしょう。
すでに航空自衛隊のパイロット育成のうち、一部教育をイタリア空軍に委託していますが、海上自衛隊もイタリア海軍との交流が増えており、空母カブールの来日に続いて、今度はトリエステが来訪するかもしれません。
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