対潜のスペシャリスト?
現在のイギリス海軍を見ると、かつてのような艦隊戦力はなく、7つの海を支配した姿はありません。それは冷戦終結後の軍縮、慢性的な予算不足のせいですが、近年は安全保障環境の悪化を受けて、再び戦力整備に注力しています。
たとえば、対潜能力の強化をふまえて、26型フリゲートの建造に取り組み、戦力の近代化を図ってきました。
基本性能:26型フリゲート
| 排水量 | 8,000t |
| 全 長 | 149.9m |
| 全 幅 | 20.8m |
| 乗 員 | 157名+同乗50名 |
| 速 力 | 26ノット以上(時速48km) |
| 航続距離 | 約13,000km |
| 兵 装 | 5インチ速射砲×1 30mm機関砲×2 20mm CIWS×2 12.7mm機関銃×4 垂直発射装置(VLS)×24 防空用VLS×48 デコイ発射装置 魚雷防御装置 |
| 艦載機 | 哨戒ヘリ×2 |
| 建造費 | 約2,000億円 |
26型はイギリスの最新鋭のフリゲートにあたり、もともとは旧式の23型を更新するべく、「将来水上戦闘艦(FSC)」の名で計画します。
23型は1989年就役以降、対潜フリゲートとして役立ち、冷戦後のイギリス海軍を支えました。しかし、仮想敵の潜水艦能力が向上するなか、30年前の設計では太刀打ちできず。新たな対潜担当が必要になりました。
そこで、BAEシステムズ社に26型の建造を頼み、計画名が「グローバル戦闘艦(GCS)」に変わったあと、2017年にようやく建造が始まります。
なお、1番艦の名前から「グラスゴー級」、あるいは「シティ級」とも呼び、合計8隻が配備予定です。
さて、26型の設計思想を表すなら、それは対潜能力の底上げです。その理由は仮想敵のロシア、中国の新型潜水艦で静粛化が進み、その脅威度が一気に高まったから。
潜水艦を探知・発見する場合、まずは自分が静かでなければならず、自身のエンジン音がうるさければ、潜水艦の発する音が聞き取れません。
それゆえ、26型は自身の静粛性にこだわり、機関は水中放射雑音の低減とともに、航続距離の延伸を考慮して、「CODLOG方式」を採用しました。
これは従来型のガスタービンと違って、電気推進を組み合わせて使い、低速時は電気モーターで走りながら、振動と騒音を激減させました。
艦底部には新型ソナーを組み込み、曳航式のソナーと併用するほか、最大2機の哨戒ヘリを飛ばしながら、潜水艦を三次元的に捜索します。このとき、新しい情報処理機能を用いると、効率的な識別・分析だけではなく、魚雷防御システムとも連動可能です。
他方、前部には垂直発射システム(VLS)を置き、対潜ミサイルはもちろん、新型の対艦ミサイルを発射できます。防空用には別のVLSを使っており、48発の対空ミサイルを搭載しました。
短距離対空ミサイルが外れると、今度は5インチ速射砲、ファランクス(CIWS)、30mm機関砲で迎撃する形ですが、これら近接火器群は他国より多く、その充実ぶりは英海軍の伝統です。
ミッション・ベイで多用途化
基本的に対潜重視といえども、マルチ能力化の流れには逆らえず、26型も当初は対潜型に加えて、汎用型を別で造るつもりでした。
ところが、このファミリー化は上手くいかず、結局は26型に多目的区画を設けて、そこにいろんな装備を搭載します。この区画は「ミッション・ベイ」と呼び、側面からコンテナごと埋め込み、任務に応じて装備を変える仕組みです。
たとえば、機雷戦では敷設装置と掃海装具、別の任務では無人水上艇を積み、任務に合わせた柔軟性を発揮します。ほかにも、特殊部隊を支援するべく、約50名の便乗者に対応したり、人道支援用の物資も積載可能です。
区画は長さ15m・幅20mと広く、そのまま全体を換装できるため、ミッション機材の変更は短時間で済み、アップグレードの余地も残しました。
すなわち、対応できる任務の幅が広く、とりあえず26型を送り込めば、ひと通りはこなせる設計です。
対潜能力を強化しつつも、マルチ能力を担保したからか、26型はイギリス海軍のみならず、同じ連邦構成国のオーストラリア、カナダが買い、海外輸出にも成功しました。
オーストラリアは26型に基づいて、9隻の対潜フリゲート(ハンター級)を造り、カナダは最大15隻で旧式艦を更新します。最近はここにノルウェーが加わり、5隻の取得を発表しました。
これら4カ国のうち、英豪加は同じ英連邦、英加ノルウェーはNATO、豪州とNATOも関係深化中です。4カ国が同じフリゲートを使えば、整備・訓練面で共通化を図り、全体の相互運用性を高められます。
課題はコスト・量産性
しかし、26型は「意欲作」であるがゆえ、工事が思うようには進まず、本来は2023年に就役するべきところ、現状では早くて2027年前半です。
イギリス全体に通ずる話ですが、造船能力が深刻なレベルまで落ち込み、これが戦力増強の足かせになっています。新規建造は言うまでもなく、既存艦艇の整備すらおぼつかず、イギリス海軍の稼働率は落ち、その凋落ぶりを象徴してきました。
ようやく改善してきたとはいえ、26型は当初の納期には間に合わず、海軍の整備計画は狂いました。軍事技術が刻々と進化するなか、あまりに時間をかけてしまい、すでに時代遅れとの批判もあります。
また、1番艦が就役したあと、毎年引き渡すものの、これまでの遅延状況を考えれば、計画通りに進むか分かりません。
当然、輸出先への納入でも不安が残り、最大の懸念事項になっています。オーストラリアは「もがみ型(改)」を選び、26型とは別の戦力も整えますが、これは確実な納期を見込んでの決断です。
たしかに、26型の優れた基本設計を持ち、8,000トンの船体規模を活かして、多目的能力を手に入れました。「もがみ型」と比較しても、兵装と多用途性では上回り、同じフリゲートでありながら、ワンランク上の戦闘艦です。
されど、フリゲートは量産性を重視せねばならず、普通は駆逐艦より安いはずです。少数の高性能・高価兵器とともに、低性能・低価格兵器を組み合わせる、「ハイ・ローミックス」の考えに基づけば、フリゲートは後者の低価格路線にあたり、数で高性能兵器の少なさを補完します。
ところが、資材価格の高騰と工事の難航、あれこれ要求を重ねた結果、平均単価が2,000億円を超えてしまい、駆逐艦より高くなりました。これは「もがみ型」の3.5〜4倍にあたり、フリゲートとしては高すぎます。
いくら優秀なデザインでも、それを実現する産業基盤がないと、せっかくの能力を発揮できず、同時に量産性を確保しない限り、十分な数をそろえられません。
イギリスは海外領土が多く、外洋海軍に必要な能力といえども、もう少し性能面で割り切り、量産性を優先させるべきでした。
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