新装備を試す実験専用艦
海上自衛隊は多くの最新装備を持っていますが、これらは事前に性能試験を行い、現場での運用評価とともに、波浪や塩害などの影響を調べねばなりません。
こうした海上での試験評価を担うべく、実験専用艦「あすか」を運用してきました。
- 基本性能:試験艦「あすか」
排水量 | 4,250t (基準) |
全 長 | 151m |
全 幅 | 17.3m |
乗 員 | 70名+試験要員100名 |
速 力 | 27ノット (時速50km) |
兵 装 | 垂直発射装置 (8セル) 3連装短魚雷発射管×1 |
艦載機 | ヘリ1機を搭載可能 |
価 格 | 約280億円 |
以前は「くりはま」という試験艦がいたものの、その船体規模は1,000トン弱と小さく、あくまで魚雷中心の試験向けでした。それゆえ、大掛かりな装備は搭載できず、長期試験ができない欠点を抱えていました。
このような点をふまえて、1995年に専用試験艦の「あすか」を造り、大型機材の設置スペースに加えて、試験要員の居住区を確保しました。また、初めて女性自衛官を乗せた艦艇になり、女性隊員の活躍という点においても、試験艦の役割を果たしました。
その後、「くりはま」が2012年に退役したため、「あすか」は唯一の試験艦になりましたが、他国は既存艦艇で試験を行うケースが多く、専用艦を持っている国はほとんどありません。
独特の艦橋構造物(出典:海上自衛隊)
世界的にも珍しいわけですが、その見た目も他の艦艇と違って、艦橋上部には独特の構造物があります。ここに射撃指揮装置の「FCS-3」、フェイズド・アレイ・レーダーを置き、のちに「ひゅうが型」護衛艦などで正式採用されました。
ほかにも、「あきづき型」以降で使う対潜ミサイル(新アスロック)、12式魚雷などの新兵器を搭載・運用してきました。
一方、機関は「COGLAG」という推進方式にあたり、ガスタービンの電気推進と機械駆動を組み合わせました。この推進方式も自衛艦として初めて導入したあと、「あさひ型」護衛艦と「まや型」イージス艦で採用されました。
このように「あすか」で試験運用されたものは、いずれ護衛艦に搭載されることが多く、試験で得た貴重なデータが最前線で活用される形です。
試験用設備と有事での役割
「あすか」は4,000トンという規模でありながら、省人化で乗員を約70名に抑えました。ただし、運用試験時は担当や計測員が乗り込み、最大100名の乗艦者に対応可能です。
設備面は会議・作業用の講堂、実験機材を置く計測室を持ち、SH-60哨戒ヘリの格納庫も機材置き場や作業場として使えます。
さらに、試験要員は陸上勤務の者が多く、あまり航海に慣れていないことから、上下移動用に通常のラッタル(梯子)ではなく、2列の階段が特別に設けられました。
まさに「特別な船」ですが、現在は多機能レーダーや新型ミサイル、曳航式ソナーなどの試験に取り組み、次世代の艦艇につなぐ役割を果たしています。
ところで、「あすか」は試験艦とはいえども、有事では戦闘艦にもなれると言われてきました。すでにミサイル発射装置、魚雷発射管を持ち、短期間の改造で76mm砲を搭載できるからです。
理論上は可能とはいえ、そもそも試験艦として建造された以上、戦闘任務は想定しておらず、通常の護衛艦と同じ戦力にはなれません。無理やり改造するよりも、「もがみ型」のような多機能艦を増産する方が有益でしょう。
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