旧式だが、今でも主力火砲
ミサイルや航空機が活躍する現代も、「火砲」の重要度は変わっておらず、2022年に起きたロシア=ウクライナ戦争では改めてその価値が再認識されました。
この戦争では、小型ドローンによる偵察・着弾観測に基づく砲兵戦が行われるなど、最新の戦い方に適応している様子が見られました。
火砲の果たす役割が再評価されたわけですが、陸上自衛隊も以前から火力重視の姿勢を貫いており、その充実ぶりは他国に引けを取りません。
そして、その砲兵戦力のうち、数の上で主力を占めるのが「155mm榴弾砲 FH70」という古めかしい大砲です。
- 基本性能:155mm榴弾砲「FH70」
全 長 | 9.8m (牽引時) 12.4m (射撃時) |
全 幅 | 2.56m (牽引時) |
全 高 | 2.56m (牽引時) |
重 量 | 7.8〜9.6t |
自走速度 | 時速20km |
要 員 | 8名 |
射 程 | 最大24km ※ロケット補助推進弾は30km |
発射速度 | 最大毎分6発 |
価 格 | 1門あたり約3.5億円 |
FH70はドイツ、イギリス、イタリアが1970年代に開発した榴弾砲で、陸自では1983年から導入が始まりました。
開発国を含めて10カ国で採用されていますが、意外にも最多調達数は日本の420門なります。今も300門以上が現役と思われますが、これは保有数2位のイタリア(約160門)の倍近い数字です。
このように本家よりも多く導入されたFH70は、全国の特科部隊に配備されている関係から、各駐屯地の式典や訓練展示で見かける機会も多く、一般的にも馴染みある大砲になりました。
そんなFH70は、砲弾を載せる専用トレイと半自動式の補助装置を使うことで、当時としてはかなり速い装填速度と連続射撃を実現しました。
また、移動時は牽引されるものの、砲自体にエンジンを搭載しているので、最大20kmほどの距離を時速15〜20kmで自走可能。したがって、陣地付近までトラックで牽引後、最後は自走して陣地展開する仕組みです。
射撃時の測定と照準は人力で行うため、精密射撃には相当の訓練や技量が求められ、「職人技」に頼っている点が多い砲といえます。ただ、長年使用してきたおかげで扱い慣れているベテラン隊員が多く、その経験と熟練の技によって迅速な精密射撃を見せてきました。
老朽化による退役と更新
長年にわたって陸自の主力火砲を務めてきたFH70ですが、開発から半世紀が過ぎ、開発国のドイツやイギリスでは退役済みです。
陸自でも導入開始から40年が経つため、古いものから順次退役させるとともに、後継として19式装輪自走155mm榴弾砲を配備予定です。
しかし、前述のようにFH70は配備数が多く、19式装輪自走砲も一挙に大量調達できない関係上、しばらくは各地で現役を続けます。むろん、これには予算の制約が関係している反面、組織にありがちな「ポスト」の問題も絡んでいます。
FH70の操作要員が8名なのに対して、後継の19式装輪自走砲では5名に減らされ、陸自全体でも火砲の定数削減を受けて、特科部隊も縮小されるはずです。
したがって、定数削減に合わせてFH70を一気に更新した場合、新しいポストからあぶれる隊員が続出するでしょう。結局、特科部隊だけでも巨大組織なので、段階的に進めなければならない事情があるのです。
未だにFH70の保有数でダントツ1位の陸自ですが、このような事情に加えて、ロシア=ウクライナ戦争で火砲の重要性が改めて取り上げられていることから、FH70が完全に姿を消すのはしばらく先でしょう。
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