軍事活動を支える働き者
「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言のとおり、どれだけ優れた戦略、よく訓練された兵士、高性能兵器を用いても、補給が安定的に続かなければ、全く意味がありません。
兵站能力は前線部隊の継戦能力につながり、地上では輸送トラックが不可欠です。
第二次世界大戦においても、アメリカやソ連は大量のトラックを使えたものの、ドイツなどは数が足りずに苦しみ、この補給能力の差が勝敗を左右したともいえます。
こうした前例をふまえて、アメリカは兵站補給能力の確保に取り組み、どの戦争でも重視してきました。
たとえば、1991年の湾岸戦争では約70万人の兵士、1,600機の航空機、1,800両以上の装甲戦力を投入しました。砂漠地帯でこの大兵力を支えるべく、アメリカは多数の輸送船・輸送機を使いながら、地上ではトラックの大群をひっきりなしに走らせました。
特に戦車や装甲車の燃料消費量は激しく、その戦力発揮には前線まで燃料を運ぶトラックが必須です。アメリカの「M1エイブラムス戦車」は最強とされつつも、燃費が悪いという欠点を持ち、「M978フューエルタンカー」のような燃料トラックが欠かせません。
- 基本性能:M978フューエルタンカー
重 量 | 約18t(車体のみ) |
全 長 | 10.2m |
全 幅 | 2.4m |
全 高 | 2.8m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速100km |
行動距離 | 約650km |
輸送力 | 9,500リットル |
価 格 | 1両あたり約2,000万円 |
M978は陸軍向けの大型燃料トラックですが、 その実態は「重高機動戦術トラック(HEMTT)」という車両の派生型になり、こちらは米軍全体で使われてきました。
HEMTTは弾薬や燃料の輸送を担うべく、1980年代に開発された8輪トラックであって、現在も13,000両近くが運用されています。
従来の5トン・トラックと比べて、積載能力を高めたのみならず、8つの全輪駆動式のタイヤにより、鈍重そうな印象を裏切る機動性を手に入れました。その大きな車体は悪路に強く、水深1.2mまでの渡航能力があるなど、戦場で運用するには申し分ありません。
なお、メンテナンスも比較的簡単なほか、C-130輸送機にさえ収まる空輸性を持ち、現場からは扱いやすいと評判です。
高い汎用性から改造もしやすく、M978でも車体の大きさを活かしたところ、9,500リットルもの燃料を搭載できます。エイブラムス戦車の燃料が約1,900リットルであるため、M978は戦車5両分の燃料を運べる計算です。
戦場での申し分ない実績
この大容量の燃料トラックは湾岸戦争に加えて、アフガニスタン戦争・イラク戦争でも多く投入されており、現地部隊の継戦能力を支えました。アフガニスタンでは山岳地帯を進み、イラクでは砂漠を駆け抜けながら、最前線まで燃料を絶えず運び、その真価を改めて発揮しています。
一方、最近ではウクライナにも70両が届き、同じく供与されたM1エイブラムス戦車の稼働を裏から支えています。燃費の悪いエイブラムスを提供する以上、M978も合わせて引き渡したわけです。
ウクライナでは西側の供与兵器が入り混じり、ドイツのレオパルト2戦車なども前線で稼働するなか、これら装甲部隊が多くの燃料を使うのは変わらず、その活動を支えるうえで悪路に強く、整備性に優れたM978が必ず役立ちます。

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