日米が逆用して対抗?
ところで、A2AD戦略の構想は新しくものではなく、二段構えの防衛線の構想は1980年代にはありました。この頃は経済開放と近代化が始まり、中国側は長期的な防衛構想として、すでに練り始めていました。
その後、1996年の台湾海峡危機が転機になり、空母2隻を出してきたアメリカを前にして、当時の中国は手も足も出ませんでした。この苦い経験をふまえて、安いミサイル戦力による非対称戦を狙い、アメリカに対抗することを決意します。
しかし、経済成長にともなって軍の近代化が進むと、今度は自分たちも空母を運用する立場になりました。
空母機動部隊は周辺海域での優位性を確保したり、手薄な台湾東岸を脅かすには役立ち、大国の威信を示すうえでも大きな役割を果たします。
ただ、空母が高価値目標なのは変わらず、その空母を運用する立場になった以上、今度は自分たちが敵のミサイルに狙われる番です。
実際のところ、日本は南西諸島に地対艦ミサイルなどを置き、アメリカも有事ではNMESIS地対艦ミサイルを展開させながら、LRASMなどの長距離ミサイルを使う戦術にシフトしました。
すなわち、今度は日米側がA2AD戦略を逆用した形になり、「日本版A2AD」「逆A2AD」ともいわれています。
自分たちも空母を保有した結果、低コスト兵器で高価値目標を撃破する手法を逆手に取られました。それでも、いまだ中国側も充実したミサイル戦力を誇り、海上自衛隊や横須賀の米第7艦隊に損害を与えられます。
また、アメリカも対艦弾道ミサイルの脅威を恐れてか、有事では空母打撃群を第1列島線には近づけず、遠方から線内にいる味方を支援するつもりです。
国際秩序の維持、同盟義務の履行はすれども、虎の子の空母はなるべく安全圏に置き、危険にさらしたくないのが本音でしょう。
したがって、有事では中国と日米の「A2AD」が互いにぶつかり、ミサイルが飛び交う事態になりそうです。


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