英の戦力投射を支える
かつてイギリス海軍は7つの海を支配したものの、現在はその規模・能力が大きく落ち込み、最盛期の見る影もありません。さはさりながら、いまもイギリスの海外領土を守るべく、外洋海軍としての能力は維持しています。
この戦力投射能力を支えてきたのが、2隻のドック型揚陸艦「アルビオン級」であって、2018年には「アルビオン」が来日して話題になりました。
「アルビオン」といえば、ガンダムに同名の強襲揚陸艦が登場するため、日本では意外に知られた名前です。この点はイギリスも認識しており、わざわざ大使館が「ガンダムは搭載していません」とツイートするほどでした。
- 基本性能:「アルビオン級」揚陸艦
排水量 | 14,600t(基準) |
全 長 | 176m |
全 幅 | 28.9m |
乗 員 | 325名 |
速 力 | 18ノット(時速33.3km) |
航続距離 | 14,800km |
輸送力 | 人員:405名 車両:最大60両以上 |
兵 装 | 20mm CIWS×2 20mm機銃 12.7mm機関銃 7.62mm機関銃 |
建造費 | 1隻あたり約400億円 |
「アルビオン級」は2003年に就役が始まり、4隻の揚陸艇を収容できるウェルドックを持ち、エア・クッション型の揚陸艇「LCAC」にも対応しました(2隻まで)。
一方、本格的な航空運用能力は備えておらず、ヘリ向けの発着スポットが2つあるのみです。CH-47輸送ヘリまで使えるとはいえ、より大きな固定翼機は運用できません。
甲板に車両を搭載した「アルビオン」(出典:イギリス海軍)
輸送能力をみると、チャレンジャー2戦車を6両、装甲兵員輸送車を30両を搭載できるほか、トラックのような非装甲車両に限れば、最大60両以上を収容できます。他のドック型揚陸艦と比べても、大きく見劣る部分はなく、通常レベルの揚陸能力は確保しました。
なお、近接火器の充実という英海軍の伝統を受け継ぎ、「アルビオン級」は20mmファランクスに加えて、7.62mmから20mmまでの各種機銃を装備しました。それゆえ、揚陸艦であるにもかかわらず、近接火器による火力網は厚く、対テロや小型艇対策では優れています。
日本派遣とその意義
「アルビオン級」揚陸艦は財政難の中で誕生したあと、イギリスでは「クイーン・エリザベス級」空母に次ぐ存在感を持ち、対外プレゼンスを示す役割を果たしてきました。
たとえば、「アルビオン」がアジア方面に派遣されたとき、日本を含む各地に立ち寄りながら、イギリスのインド太平洋への関与をアピールしました。
この派遣は国際親善のみならず、北朝鮮による海上での「瀬取り」を監視したり、中露に対してイギリスの姿勢を示す狙いがありました。また、その後に「クイーン・エリザベス」の空母艦隊が来たことを考えると、その下地をつくる意義も大きかったといえます。
ところが、英海軍は深刻な予算・人員不足に苦しみ、「アルビオン級」は1隻分の乗組員さえ確保できていません。これはローテーション以前の課題であり、そもそもの稼働が見込めない致命的な問題です。
かなり無理をして極東まで来たようですが、ヒト・カネの不足は改善が見られず、結局は2025年に英海軍での現役を退き、2隻まとめてブラジルに売却されました。
それゆえ、現在はブラジル海軍の所属になり、イギリスの戦力投射能力に大きな穴が空きました。

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