空中投下してミサイル発射
空からの対艦・対地攻撃は戦闘機や爆撃機の役割ですが、最先端を走る米空軍では輸送機からミサイルを空中投下して攻撃に使う手法が研究されています。
「ラピッド・ドラゴン」と名付けられたこの兵器システムは、長射程ミサイルを収めたパレット・コンテナをC-17輸送機などに載せた後、パラシュート投下によって発射する仕組みです。
太平洋での「対中国戦」を意識したこの戦術では、JASSM-ER対地巡航ミサイルを貨物室から空中投下して敵の射程圏外からの攻撃を試みます。射程距離900km以上を誇るJASSM-ERは、対艦攻撃にも使えると推測されており、台湾有事では本命ながら品薄のLRASM(JASSMの対艦攻撃型)に代わって投入予定です。
事実上の切り札として期待されるJASSM-ERですが、このラピッド・ドラゴンを用いれば、C-130輸送機に最大12発、C-17輸送機であれば最大36発も大量搭載できます。
これは本来運用されるB-1爆撃機の24発と比べても十分すぎる能力で、大掛かりな改修をしなくてもそのまま使える利点もあります。一応、目標情報を入力するための戦闘システムを追加する必要があるものの、変更箇所はそれぐらいで済みます。
このようにパレットを載せて空中投下するだけで、普通の輸送機を攻撃機に仕立て上げられるわけです。
狙いは撹乱と防空網圧迫
では、輸送機から対地・対艦ミサイルを投下する効果とは一体何か?
まず、挙げられるのが「輸送機ですら敵にとって脅威となる点」。
実際に積んでいる中身は外からは判別できず、輸送機から大量のミサイルが放たれるかもしれないだけで敵は疑心暗鬼となり、警戒せねばなりません。
空中投下されたラピッド・ドラゴン(出典:アメリカ空軍)
そして、輸送機が空中投下した分だけ、爆撃機や戦闘機、水上艦船などから発射された本命弾が防空網を突破しやすくなります。つまり、輸送機の攻撃化は相手の防空能力を心理的・物理的に圧迫する効果が見込めるのです。
単なる輸送機かと思えば、爆撃機並みのミサイルを撃ってくるわけですから、敵にとっては油断ならない「厄介なやつ」でしょう。
理論上は自衛隊も使える?
さて、米空軍が取り組んでいるこのラピッド・ドラゴンは、実は日本の航空自衛隊も運用可能です。
空自もC-130輸送機を使っているうえ、最新のC-2輸送機もパレット・システムに対応しているので、大規模な改修なしで攻撃能力を入手できます。しかも、JASSM-ERミサイルはF-15J戦闘機に搭載する目的で購入予定です。
したがって、理論上は日本もラピッド・ドラゴンを使って輸送機に攻撃力を与えられます。
ただし、豊富な輸送機群を誇る米空軍と違って、自衛隊の航空輸送力は現状でも足りているか怪しく、実際には攻撃任務に回す余裕などないでしょう。
それでも、アメリカとともにラピッド・ドラゴンの試験運用や訓練を行えば、いざという時の互換性を確保できるのみならず、中国軍に疑念を抱かせる心理的効果を期待できます。
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