海自潜水艦という訓練相手
ここまで正面装備をみてきましたが、他国潜水艦からすれば、それを扱う技量も恐るべきレベルです。
それはあのアメリカすらうなるほどで、対潜だけに限れば、米海軍を上回るとさえ言われてきました。
もちろん、これは過去の反省をふまえて、鬼のように対潜戦闘訓練をしてきたからです。実際のところ、対空戦闘や対水上戦闘に比べたら、訓練の大部分は対潜分野が占めてきました。
ただ、もうひとつ大きな要因もあります。
それは海自潜水艦を相手に鍛えられる点です。
海自は潜水艦ヘイトを持ちながらも、通商破壊兵器・戦略兵器としての有効性は理解しています。そのため、国産潜水艦の開発も忘れず、いまや通常動力型(非原子力)では最強クラスの性能を手に入れました。
訓練相手も最強クラス(出典:海上自衛隊)
潜水艦にとっていちばん大事なのは、まず敵に見つからないことですが、水上艦や哨戒機が性能を高めるなか、ずっと隠れておくのが難しくなりました。
しかし、海自潜水艦は最高レベルの静粛性を誇り、対潜の鬼をもってしても、そう簡単には見つけられません。そんな手強い相手と訓練していれば、否でも応でも技量が高まり、どんどん練度が上達していきます。
隠れんぼを行うにしても、常にアップデートしてくるプロとすれば、こちらも必然的に上手くなるでしょう。
高い能力を誇る者同士、これが互いに挑み、切磋琢磨することで、双方の技量向上につながったわけです。
最近は技量が危ぶまれている?
そんな「潜水艦憎し」の海自ですが、近年は技量の低下が心配されています。
ここ30年でミサイル防衛、海賊対処、国際貢献、離島防衛などの任務が加わり、いまや活動範囲はインド洋まで広がりました。
組織規模や定員が変わらないなか、これだけ活動が広がれば、ひとつの分野に割ける時間や資源は少なくなります。対潜能力もその割を食う形となり、以前ほどは専念できていません。
一応、対潜特化の「あさひ型」護衛艦、ヘリ空母が登場するなど、決して対潜重視から離れたわけではなく、あくまで悪化する安全保障環境に対処しきれていない感じです。
たとえば、中国海軍の増勢と海洋進出に対処すべく、「いずも型」は軽空母になりましたが、もともとは哨戒ヘリ向けの洋上基地でした。空母化改修でF-35B戦闘機を載せるとはいえ、その分だけ対潜哨戒能力は減りました。
そして、任務の多様化にともない、海自の負担はどんどん増えており、それが原因とされる事故も発生しています。このまま疲弊が続けば、せっかく築いた優位性と長所を失い、再び敗北につながりかねません。
仮に台湾有事が起きても、対潜戦の重要性は変わらず、冷戦期と比べて役割が進化したとはいえ、米海軍をアシストする前提も同じです。
ただ、かつてほどの脇役感はなく、南西海域では主体的に行動するほか、敵基地攻撃能力という「矛」も手に入れました。
こうした関係性の変化はあれども、対潜哨戒を重視しながら、米海軍を補助する本質的部分は変わっていません。
そのため、可能な限り負担軽減を進めながら、その能力維持をせねばならず、まさに本来の対潜の鬼としての真価が問われています。
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