自衛隊・軽装甲機動車の防弾性能と後継について

陸上自衛隊
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最も身近な装甲車?

戦場では銃弾や砲弾が飛び交う以上、歩兵を守る装甲車が必要になり、陸上自衛隊が使う各装甲車のうち、おそらく隊員に最も身近なのが「軽装甲機動車」です。

これは兵員の輸送・防護を行うべく、小松製作所が作った軽装甲車ですが、2000年から部隊配備が始まり、2,000両以上が生産されました。

  • 基本性能:軽装甲機動車
重 量 4.5t
全 長 4.4m
全 幅 2.0m
全 高 1.85m
乗 員 4名
速 度 時速100km
航続距離 約500km
兵 装 なし
価 格 1両あたり約3,000万円

軽装甲機動車は「LAV(ラヴ)」の愛称を持ち、従来より装甲を強化したのみならず、比較的軽量で空輸に適しています。

空輸しやすいことから、海外派遣では定番の装備になり、イラクやジプチでは追加装甲を施しながら、過酷な環境下でパトロール活動をしてきました。なお、最近は島嶼防衛用の装備が重視されるなか、軽装甲機動車は輸送機やCH-47ヘリで運びやすく、機動展開戦力のひとつとして期待されています。

武装についていえば、屋根に5.56mm機関銃を設置できるほか、上部ハッチを開いて01式軽対戦車誘導弾を発射可能です。このとき、機関銃手は後部座席の間に座わり、定員を5名に増やしたりします。

足りない防護力と快適性

「軽装甲」である以上、防護力はそこまで期待できず、乗員を守る最低限レベルに抑えられました。装甲と防弾ガラスで小銃弾は防げるものの、それ以上の重火器になれば、有効性が疑問視されています。

詳しい防弾性能は防衛機密にあたり、おおよその推測でしかありませんが、海外派遣時に防弾ガラスを強化した点をふまえると、デフォルト状態は機関銃弾でさえ厳しいかもしれません。

さらに、重心の低い車体は横転しやすく、地雷や即席爆発装置(IED)に対する脆弱性が指摘されています。

前後から見た軽装甲機動車

さて、冒頭で身近な装甲車と言いましたが、残念ながら「身近=快適」とはなりません。

座り心地は決してよくはなく、タイヤの振動も伝わることから、長距離移動時は不満が溜まるそうです。その車内は意外に狭く、通常定員の4名が乗り込めば、全ての個人装備は入りきりません。

このような問題にもかかわらず、自衛隊の装甲車として初めてエアコンがつき、その点だけでも夏場は重宝されます。

迷走する後継の選定

防護力・快適性の問題を抱えながらも、量産効果で単価は3,000万円まで下がり、自衛隊車両にしては安くなりました。普通科連隊などの陸自部隊に加えて、航空自衛隊も基地警備用に使い、わりと目にしやすい自衛隊車両です。

ただし、配備中の約1,800両のうち、8割が耐用年数を超えており、後継の選定が急務になっています。

小松製作所が防衛産業から撤退したため、三菱重工業が推すオーストラリアの「ハーケイ」、丸紅が提案するスイスの「イーグル」の一騎打ちになり、防衛装備庁は性能試験を行いました。

しかし、装甲車としての性能はともかく、両者とも想定以上に値段が高くなり、防衛省は選定作業を仕切り直しました。その後、防弾化した民間車両の案が浮かび、トヨタの「ランドクルーザー(70と250の2種類)」、いすゞの「D-MAX」を比較する予定です。

2028年度の性能試験に基づき、ようやく後継を選ぶようですが、それだけ部隊配備は遅れます。防弾化するとはいえ、果たして民間車両に装甲車が務まり、要求性能を満たせるかは疑問です。

装甲化で重さが増えるなか、現行のエンジンでは出力に不安が残り、車体設計も変更しない限り、地雷や即席爆弾(IED)に耐えられません。改造するといえども、民生車両の防弾化には限界があって、その最大性能はたかが知れています。

ロシア=ウクライナ戦争を見ると、両軍とも民生車両を部隊に組み込み、戦場での移動手段に使ってきました。それでも、防護性能は装甲車には敵わず、あくまで装備不足による穴埋めにすぎません。

どこまで防弾化できるかですが、パトリア装甲車で防護力を高める分、LAVの後継は性能を妥協したのかもしれません。少数の高性能と多数の低性能を組み合わせながら、「ハイロー・ミックス」として割り切った可能性はあります。

あるいは小松製作所の撤退を受けて、国内企業の引き留めを狙ったともいえます。

顧客が自衛隊に限られる以上、防衛装備品の開発はあまり利益にならず、護衛艦などの例外を除けば、企業的には嬉しくない案件です。高機動車の開発例をあげると、トヨタは同じ車体・技術を流用しながら、「メガ・クルーザー」という民生品も作り、利益(採算)を取ろうとしました。

今回は「民生品→官品」と逆になるものの、防衛省は国内産業の保護もふまえて、安価な民生車両を活用するつもりなのでしょう。すでに外国産で比較検討を行い、再び配備がズレ込む点を考えると、グダグダな感は否めませんが。

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