空自基地の防空火器として
現代は対空ミサイルが防空の主役とはいえ、突破されたときの「保険」として、対空機関砲の人気も根強いです。
たとえば、水上艦艇は「ファランクス」などのCIWSを使い、陸上自衛隊では「87式自走高射機関砲」を運用しています。
一方、航空自衛隊では基地を守るべく、最近まで「VADS(バッズ)」という20mmバルカン砲を持っていました。
空自は航空機なしでは何もできず、その航空戦力は滑走路を含む基地機能が必要です。ところが、現代戦では航空基地は真っ先に狙われやすく、これをいかに守り切り、運用能力を維持するかが勝敗を決します。
基地防空隊が重責を担うなか、VADSはその任務を支えてきました。
- 基本性能:VADS-1改
重 量 | 1.8t |
全 長 | 4.3m |
要 員 | 2名 |
兵 装 | 20mmバルカン砲 |
発射速度 | 毎分3,000発 |
射 程 | 約1,200m |
射 角 | 360度 仰角:80度 俯角:-5度 |
価 格 | 不明 |
まず、VADSとは「Vulcan Air Defense System」の略称であって、日本語ではバルカン防空システムの訳になります。
アメリカが1960年代に開発した防空兵器ですが、空自が基地防空の最終手段として買い、戦闘機部隊のある主要基地だけでなく、各地の基地防空隊に配備してきました。
車両でけん引できるとはいえ、その有効射程は約1,200mと短く、わずか数秒の迎撃時間しかありません(水平射撃時は射程4,500m)。
毎分3,000発の弾幕を張りながら、巡航ミサイルなどを撃墜、あるいは航空機の進路妨害を狙います。ミサイルはともかく、航空機の場合は進路上に弾幕を張り、攻撃を失敗させる意味合いの方が強いです。
対ドローンで使えたはず
空自に配備されたVADSのうち、「VADS-1改」の運用が最も長く、全国でよく見られた装備品でした。
これは目標の未来位置を予測するべく、レーダーとコンピューターを使いながら、カメラで自動追尾もできたため、初期型と比べて高い命中率を誇りました。
ちなみに、あとから「VADS-2」も登場しましたが、こちらは正式な装備品ではなく、余剰品を再利用した簡易版でした。
具体的にいうと、退役戦闘機からバルカン砲を外して、けん引式のトレーラーに載せただけのもので、測距機能などはついておらず、ほとんど命中精度は期待できません。

その後、基地防空用地対空誘導弾の配備にともない、VADSは2021年3月に全て引退しました。
ところが、ロシア=ウクライナ戦争が起き、多くのドローンが飛び交うと、これを撃墜する最適な手段として、対空機関砲が再評価されます。安い自爆ドローンに対して、高価なミサイルを使うのは割に合わず、迎撃における費用対効果を考えると、対空機関砲の方が適任です。
しかも、自爆ドローン(+巡航ミサイル)は比較的遅く、機関砲でも撃墜できることから、再び有効な防空手段になりました。
この再評価は最前線に限らず、都市防空でも活躍を続けており、首都・キーウの守りに貢献してきました。もっと近くに目を向けると、韓国の首都・ソウルでも高層ビルにVADSを置き、北朝鮮のロケット弾と巡航ミサイル、ドローンに備えています。
以上の点をふまえると、VADSの退役はもったいなく、巡航ミサイルと自爆型ドローン対策に使えたはずです。

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