災害大国・日本にとっての価値
さて、病院船は第二次世界大戦では多く使われていたものの、現在はあまり見られず、日本もこの種類の船は持っていません。
一応、「おおすみ型」輸送艦や「いずも型」護衛艦は医療機能を持ち、手術室などの設備は整っています。しかし、その規模や能力は病院船と比べるまでもなく、国際法上の保護対象にもなりません。
では、日本に病院船は必要なのでしょうか?
結論からいえば、かなりのメリットが見込めます。
まず、日本は多数の離島を抱えるほか、毎年のように災害が起こる国です。しかも、地震などで孤立しかねない地域も多く、洋上拠点を使っての救援活動が求められます。
たとえば、東日本大震災では「ひゅうが型」護衛艦のような大型艦船が貴重な医療拠点として機能しました。そして、能登半島地震でも、強襲揚陸艦や病院船があれば、もっと本格的な医療活動を早期に始められたでしょう。
ほかにも、新型コロナウイルスのような疫病が起きた場合、初期段階の水際対策から現地病院の負担軽減に活用できます。
まだ日本でコロナが本格流行する前、ダイヤモンド・プリンセス号という客船で集団感染が発生しました。このとき、病院船さえあれば、洋上でそのまま隔離しながら治療できたとする意見も出ました。
これに対して、アメリカではニューヨークとロサンゼルスに病院船を送り込み、都市部の医療崩壊をギリギリ防ぎました。
「マーシー級」病院船(出典:アメリカ海軍)
こうした教訓もふまえて、日本でも病院船を2025年から運用することが決まり、まずは民間船のチャーターという形で始まります。自衛隊では、すでに民間フェリーを高速輸送船として使っていますが、最初の病院船も同様の仕組みになるでしょう。
おそらく、この借上げタイプでいろいろ試したあと、いずれは本格的な病院船を建造すると思われます。もし新たに建造する場合、その建造費は約350億円とされていますが、大規模災害で無数の命を救える可能性を考えると、決して無駄使いではありません。
南海トラフ地震や首都直下型地震では、未曾有の被害とインフラ壊滅が起きるため、こうしたインフラに頼らない自己完結能力を持ち、長期活動できる病院船は必要です。
しかしながら、自衛隊が慢性的な人手不足に苦しむなか、彼らに病院船を運用する余裕があるとは思えません。
アメリカのように普段は民間スタッフに整備・維持を任せるかもしれませんが、出動時には自衛隊が運用せねばならず、それだけの乗組員を確保するのは現状では難しいでしょう。
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