ドイツが開発した対空戦車
陸戦における圧倒的強者のイメージがある戦車は空からの攻撃に弱いという難点を抱えており、航空機が猛威を振るった第二次世界大戦ではこれに対抗するための「対空戦車」が登場しました。
連合国側に制空権を奪われたドイツ軍が旧式戦車の車体を流用して対空戦車を開発したことが有名ですが、この考えは戦後に受け継がれます。
敗戦と東西分断に直面したドイツ(ここでは西ドイツを指す)ですが、新たに始まった米ソ冷戦の最前線に位置していたことから再び軍備増強をせざるを得ず、戦車部隊も例外ではありませんでした。
そこで、対空戦車もアメリカから供与されますが、1976年にはドイツ産の「ゲパルト自走対空砲」の配備が始まりました。
⚪︎基本性能:ゲパルト自走対空砲
重 量 | 47.5t |
全 長 | 7.68m |
全 幅 | 3.71m |
全 高 | 3.29m |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 時速65km |
行動距離 | 550km |
兵 装 | 35mm機関砲×2 |
価 格 | 1両あたり約3億円(中古) |
ドイツ語でチーターの意味する「ゲパルト」は、当時のドイツ主力戦車「レオパルト1」の車体に35mm機関砲を2門搭載した対空戦車であり、ドイツ以外にもオランダやベルギーが採用しました。
防空の要となる機関砲の有効射程は約5.5kmで、毎分550発の発射速度を誇りますが、全力射撃をした場合はわずか40秒足らずで撃ち尽くしてしまうので通常は敵機に対する進路妨害を企図した100発前後の射撃をします。
一応、水平射撃も考慮して徹甲弾も発射できるため、軽装甲車などに対しては打撃を与えられます。
砲塔の上部には約15kmの探知距離を持つ捜索・追尾レーダーが設置されているため、一つの目標を追尾しながら別の目標を同時に捜索できます。
射撃管制装置については初期型こそ当時のコンピューターの限界を示すようなアナログ方式でしたが、その後の近代化改修で射撃精度は大幅に向上しました。また、攻撃ヘリなどによる遠距離ミサイル攻撃を想定して、スティンガー対空ミサイルを2発装備した車両もあります。
対ドローンでの再注目と実戦投入
対空戦車のレベルを一気に上げたゲパルトはドイツ軍に約380両が納入され、オランダとベルギーにもそれぞれ95両、55両が輸出されました。
日本の陸上自衛隊が運用する「ガンタンク」こと87式自走高射機関砲もゲパルトを参考に開発されて外見と性能も似ているので、ゲパルトが各国に与えた影響は大きいのです。
ただ、その後は地対空ミサイルによる防空が主流となる中でゲパルトの利用価値も徐々に低下し、2010年にはドイツ軍から全数引退しました。
それでも、ミサイルを中心とした防空システムよりは安く、比較的速度の遅い巡航ミサイルであれば撃墜可能なので中古のゲパルトに手を挙げる国は多いようです。
例えば、ブラジルやルーマニア、ヨルダンは退役済みのゲパルトを入手して防空戦力として活用している他、2022年にサッカーW杯を開催したカタールもテロリストによるドローン攻撃を警戒して15両前後を購入しました。
これは航空自衛隊が使っていたVADSバルカン防空システムと共通する点ですが、陳腐化したと評された機関砲は自爆ドローンなどを撃墜するうえでは意外に有効であり、現代でもまだ使える防空兵器といえます。
特に、ミサイルと比べて低速かつ安価なドローンを撃ち落とすために高価な対空ミサイルを毎回発射するのは費用対効果が悪く、対空機関砲を使った方が合理的でしょう。
したがって、高価な防空システムを買えない場合やドローン対策の観点ではゲパルトもまだまだ利用価値がある兵器です。
そんなゲパルトは2022年のロシア=ウクライナ戦争でドイツからウクライナに供与されたことで初実戦を迎えました。
合計50両のゲパルト自走対空砲が提供される予定ですが、既に30両以上が戦場に到着してドローンの迎撃任務などに従事しています。
ロシアによるミサイルとドローンを使った攻撃に悩むウクライナにとって防空能力の強化が喫緊の課題なので、ゲパルトは同じくドイツから供与されたIRIS-T防空システムとともに空を守る救世主の一員なのです。
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