スウェーデンの分散運用機
スウェーデンは最近まで中立政策を貫き、他国への依存度を下げるべく、国産の兵器開発に力を注いできました。
たとえば、ウクライナに供与された「NLAW対戦車ミサイル」、早撃ちで知られる「アーチャー自走榴弾砲」など、中立の産物として高性能兵器が生まれました。
そんなスウェーデン製の兵器のうち、「グリペン戦闘機」は独自色が強く、航空マニアに人気のある機体です。
- 基本性能:SAAB・JAS 39 グリペンE(最新型)
| 全 長 | 15.2m |
| 全 幅 | 8.6m |
| 全 高 | 4.5m |
| 乗 員 | 1名 |
| 速 度 | 最大マッハ2.0 (時速2,470km) |
| 航続距離 | 最大4,000km |
| 高 度 | 15,000m |
| 兵 装 | 27mm機関砲×1 対空ミサイル、対地ミサイル、対艦ミサイル 誘導爆弾など |
| 価 格 | 1機あたり約130億円 |
グリペンとは「有翼獅子」の意味を持ち、マルチロール機として制空はもちろん、対地・対艦攻撃までこなします。汎用性が高いにもかかわらず、コストが比較的安いですが、これは身の丈に合った性能を目指して、航続距離とステルス性で妥協したからです。
そして、スウェーデン特有の運用構想に基づき、国土に分散配置されてきました。スウェーデンは山岳地帯と積雪が多く、山に戦闘機用のハンガーをくり抜き、全滅リスクを回避しています。仮に航空基地や滑走路が破壊されても、これらハンガーにある戦闘機は残り、近くの高速道路から出撃させる仕組みです。
それゆえ、グリペンは「短距離離着陸能力」を持ち、長さ800mの高速道路から飛ぶなど、各地で現れる神出鬼没の戦闘機になりました。
こうした高速道路には給油所、整備スペースはあれども、通常の航空基地に比べると、どうしても設備面では劣ります。だからこそ、グリペンは整備機材をコンパクトにしたり、メンテナンス手順を簡略化しながら、その作業効率を大幅に高めました。
その結果、道路脇で野外整備する場合、燃料トラックを含む数台の車両に加えて、5、6名の整備員がいれば問題ありません。このとき、再武装と給油には最短15分しかかからず、1時間でエンジン交換まで行えるそうです。
まとめると、グリペンは多くの兵器を積み込み、長時間飛行をするのではなく、分散拠点を活かしながら、「補給→再出撃」を繰り返すことにしました。
小さいが、現代戦にも対応
グリペンの主翼には水平尾翼がないものの、別にあるカナード翼で揚力を発生させており、全体的に軽量化が進んだところ、優れた機動力を確保しました。
さらに、単発エンジンは排気効率の改善に取り組み、出力向上を実現するとともに、最新のE型では長時間の超音速飛行、「スーパークルーズ」を実現しました。
一方、武装は西側標準の対空ミサイル、国産の対艦ミサイルなど、さまざまな兵器から選び、任務に合わせた柔軟性を発揮します。この点においても、E型では搭載箇所が8個から10個に広がり、全体の兵器搭載量が増えました。
また、開発時から地上レーダー、僚機との連携を想定したため、電子機器はソフトウェアを更新すれば、その都度アップグレードできる仕様です。E型では電子戦能力の強化を行い、新しいAESAレーダーを搭載したほか、囮の機体を創り出す「欺瞞能力」まで獲得しました。
このような魅力を受けてか、その導入はスウェーデンにとどまらず、ハンガリー、チェコ、南アフリカ、タイ、ブラジルが購入済みです。最近ではロシアの侵略にともない、ウクライナが100機以上のE型を買い、空軍力の飛躍的強化を図りました。
日本でも「F-4戦闘機」の後継を決める際、一時はグリペンが話題になりました。しかし、日本は国土が南北に縦長く、広大な海洋面積を抱える以上、航続距離が足りませんでした。
山岳地帯が多い点は同じとはいえ、日本とスウェーデンでは運用構想が異なり、少なくとも日本では高速道路は使えず、あまり分散拠点化は想定していません。
それでも、グリペンは性能の割には安く、最新のステルス機を買う余裕がない、そこまで求めていない場合、有力な候補としてあがるはずです。
ステルス機ではないものの、グリペンは機体そのものが小さく、その分だけレーダーに小さく映ります。E型ではレーダー反射面積を減らすべく、一定の工夫を行いながら、さらなる探知の回避を目指しました。
ただ、性能的にはF-16戦闘機がライバルにあたり、その最新型はグリペンと価格面で大差がなく、ステルス機のF-35も量産効果を通して、ついに単価が100億円を切りました。
したがって、グリペンの将来は安泰とはいえず、むしろステルス機と中古戦闘機の間に入り、「中途半端」な立ち位置になる可能性が高いです。
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