早期警戒管制機を電子攻撃
現代の自衛隊は陸海空だけではなく、宇宙、サイバー、電磁波の新領域に対処せねばならず、各特性に合わせた部隊を発足させています。
こうした動きのなか、陸上自衛隊は電磁波で航空機・ドローンを妨害するべく、新たに「対空電子戦部隊」を創設しました。
同部隊は移動式の対空電子戦装置を使い、敵の早期警戒機などを無効化するなど、航空自衛隊の作戦をアシストします。
航空優勢(≒制空権)が欠かせない以上、地上レーダーと艦船搭載型では捜索範囲が足りず、広い探知能力を誇る早期警戒機が重要です。
特に早期警戒管制機は「空飛ぶ管制塔」とも呼び、水平線に制約される地上施設と違って、高高度から広いエリアを見渡しながら、味方の戦闘機を指揮・統制できます。
早期警戒管制機は戦場を俯瞰する「目」、チームプレイの「頭脳」になるため、優先目標として狙われやすく、その安否は勝敗に関わってきます。
それゆえ、対空電子戦部隊は敵の早期警戒管制機を狙い、高出力の電磁波を浴びせるのが役目です。この電磁波攻撃により、早期警戒管制機の探知能力は低下を免れず、通常の200〜300kmから100km未満まで低下します。
対空電子部隊が地上から電子攻撃を行い、敵の探知能力を削ぎ落としている間、空自が早期警戒管制機に近づき、そのまま高価値目標を撃墜するわけです。
機動的に電磁波攻撃をするべく、トラック搭載型の対空電子装置を導入しましたが、大きなパラボラ・アンテナのような見た目をしています。ちなみに、気になる値段は2セットで約62億円です。
対空電子戦部隊は台湾有事、あるいは南西諸島の防衛を考えて、沖縄県・与那国駐屯地に配備されます。いくら高出力であっても、地上からの電磁波照射は到達距離・高度が限られるため、なるべく戦域に近い場所に配備した形です。
電子作戦隊との違い
ところで、陸自の電子戦部隊といえば、2022年に発足した電子作戦隊がありますが、何が違うのでしょうか?
電子作戦隊は電磁波の収集と特定を担い、もっぱら情報分析や通信防護を行う部隊です。ただし、有事では電波妨害も実施することから、一部の役割は対空電子部隊と重複します。
あえて違いに触れると、電子作戦隊は敵の周波数を狙い、相手を撹乱させるのに対して、対空電子戦部隊は早期警戒管制機が主目標です。
中国気球も無力化できるか
早期警戒管制機がターゲットとはいえ、中国の偵察気球も狙うべきとの意見があります。
この偵察気球は2023年頃に話題になり、アメリカ本土に侵入して横断したところ、F-22戦闘機に撃墜されました。しかし、同じ気球は世界各地でも目撃されており、日本でも2020年に仙台上空を飛行しました。
この気球への対処法として、電磁波照射で通信を妨害したり、機能不全に陥れる事が検討されています。
いまだ中国の偵察気球は謎が多く、電子攻撃の有効性は分からないものの、アメリカでは回収した残骸の調査が進み、装置の詳細と通信の仕組みが明らかになるかもしれません。
もし偵察気球に効くならば、ドローンにも似た効果を期待できるでしょう。
ただ、約30億円の装備である点をふまえると、これを「低価値目標」に使うのはもったいなく、費用対効果的にはよろしくありません。

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