日本がPAC-3ミサイルを輸出する理由とその影響

自衛隊のPAC-3ミサイル 外交・安全保障
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日本の防空にも寄与する?

こうした支援は一方通行と捉えられがちですが、日本にとってもメリットはあります。

それはウクライナがペトリオット・ミサイルを使って迎撃するほど、貴重な実戦データが得られ、防空システムのアルゴリズムが改善されていくことです。

迎撃に使うアルゴリズムが実戦経験をもとにアップデートされたら、その分だけシステム全体の命中率は高まります。そして、それは同じペトリオット・シリーズを使う国々にも反映されるわけです。

枯渇・疲弊する欧米に続けるか

今回の輸出はアメリカに対して逆輸出する奇妙な行為ですが、「ライセンス元からの要請」という理由に基づいて行われます。

これを実現するべく、防衛装備移転三原則の運用指針まで改正したわけですが、この背景にあるのが欧米諸国の支援疲れと台湾有事を見据えた準備です。

対ウクライナの軍事支援について、アメリカは砲弾や一部ミサイルを除けば、まだ一定の余力があるとはいえ、欧州各国は底をつきかけて苦しいのが現状です。これに加えて、国内情勢の行方次第では支援を継続できるか分からず、いよいよ欧米諸国の切れるカードが少なくなりました。

したがって、今後は日本を含むアジア各国(韓国、豪州など)への支援要請が強まるはずで、政府としては今のうちに実例を作って問題点を洗い出したり、国内反応を試しておきたいのが本音でしょう。

今後は旧式のホーク防空ミサイル、退役が進むFH70榴弾砲などが候補に上がるなか、最も緊急性が高いのは155mm砲弾と思われます。こちらは戦場での消費量が凄まじく、ゆえに欧米の在庫も逼迫しているのですが、日本国内でも陸自向けに生産していることから、PAC-3ミサイルと同じ第三国経由での提供が可能です。

不足しがちな155mm榴弾砲の弾薬(ウクライナ国防省)

もちろん、砲弾需要の高まりを受けて、アメリカも生産ラインを強化したり、新規工場を建てるなどして、月産3万発の砲弾生産量を2025年には10万発まで引き上げる予定です。

しかし、現在進行形のロシア=ウクライナ戦争に間に合うかは不透明なうえ、こうした増強をもってしても、かつての生産量には遠くおよびません。たとえば、冷戦末期の砲弾生産能力は優に月産100万発を超えていて、ソ連崩壊後の1990年代半ばですら毎月80万発以上を作れました。

こうした事情をふまえれば、アメリカを中心としながらも、欧州とアジアの自由主義国家もできる範囲での軍事支援をせねばなりません。

また、これは決して対岸の火事ではなく、日本自身が侵略を受けた場合はもちろん、台湾有事でも遠く離れた欧州各国に支援を働きかける立場になります。

よって、今回の支援は国社社会の一員として侵略に苦しむ国を助けるのみならず、アジア方面での危機を見据えて欧州勢に「貸し」を作るものです。そして、その貸しは将来的に数倍になって返ってきます。

こうした支援に対して、当然ながら日本国内でも賛否はあります。特に殺傷能力のある装備品の輸出・供与は紛争を助長するだけとの意見が多いです。

しかし、日本も殺傷能力のある武器をたくさん輸入している点は忘れてはならず、輸入するのはよいが、輸出するのはダメでは整合性がつきません。

さらに、日本は責任ある国際社会の一員、国際秩序の恩恵を長年享受してきた国です。よって、どうしても求められる役割・責務があって、軍事力で安全保障を確保している事実がある限り、それは軍事分野にも及びます。

つまるところ、日本国憲法の前文にも書いてあるように、自己満足で独りよがりな一国平和主義ではなく、責任ある国際社会のメンバーとして相応の役目を果たさねばなりません。

われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。〜(略)〜いずれの国家も、自国のことのみに専念して、他国を無視してはならない。

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